高齢者の衰えITで阻止 神戸市と民間連携、フレイル予防事業化へ


健康と要介護の中間の時期で心身が衰える高齢者のフレイル(虚弱)を、デジタル技術を使って予防する取り組みが神戸市内で進んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で運動や交流の機会が減る中、市とスタートアップ(新興企業)などが連携。楽しみながら続けて運動機能が向上したとの成果が出ており、事業化の動きもある。(横田良平)「両足のかかとを上げて、次につま先」「背中は真っすぐで-」昨年12月、同市長田区のリハビリ施設。利用者は自宅に居ながらタブレット端末を使ってオンラインで職員と会話し、画面に映る動作に合わせて体操をした。介護事業所にリハビリ支援ソフトを提供するリハブフォージャパン(東京)の実証実験。参加した同区の女性(69)は「家だとマスクなしで体操できる。体がよく動きます」と話した。同社と連携する神戸市は2021年度、地域福祉センターなどに同様の端末を置き、離れた高齢者同士が会話できる仕組みを提供する予定。心身の健康につなげ、IT企業と介護事業者間の事業交流も促す考えだ。人工知能(AI)を使った社会課題の解決を図るエクサウィザーズ(東京)は、スマートフォンで撮影した歩く様子をAIが解析し、個々人に合った運動指導につなげる実証実験を行う。市内の介護事業所などで取り組んでおり、サービスは一部事業化しているが、より充実させて事業展開を図るという。◇センサー内蔵のデバイスを体に取り付け、運動機能の測定サービスを提供するMoff(モフ、東京)は昨年9~11月、神戸市内の65歳以上の78人に実証実験を行った。体の動きをセンサーが読み取り、データ化して蓄積。いすから立ち上がり、3メートル往復して着席するまでの速さや、30秒間の立ち座り回数を測って順位付けした。それぞれの体力を「見える化」してやる気を促し、順位を競い合う遊び感覚もあって、参加者の約9割が運動を続け、体力向上がみられたという。「始める前は年齢相応の体力だったが、平均で30歳以上若返った項目もあった」と同社の土田泰広取締役(48)。体験後のアンケートでは「体が軽くなった」などと回答した人が9割という結果が出た。料金を払っても続けたいとした人も8割を超えた。同社は今月から、市内でこのサービスの個人提供を開始し、拠点も構えるという。市内の65歳以上人口は約43万人で、うち介護や支援が必要な人は約9万人。市は健康寿命を延ばすため、栄養▽身体活動▽社会参加-の3本柱でフレイル予防に注力。NTT西日本とも連携し、eスポーツでの健康増進にも取り組んでいる。■市場確立これから高齢化で医療・介護費用は膨らみ続けている。ただ、民間のIT活用によるフレイル予防の市場は未成熟で、医療・介護費の抑制と「健康」をキーワードに経済活性化が期待される。神戸市によると、2019年度の介護保険事業での給付費は1321億円。右肩上がりで伸び、介護保険制度が始まった00年度比で3・5倍になった。25年度には1666億円に膨らむとみられ、市の担当者は「サービスの抑制や削減は難しく、保険料や公費負担が年々増える」とする。フレイル予防も主に自治体が担っており、民間市場の確立はこれからだ。調査会社の富士経済(東京)によると、ITを使ってフレイルの進行を予知・測定し、予防プログラムなどを提案する製品やシステムの市場規模は18年で約500万円。25年には10倍の5千万円になると予測し、この頃に市場が立ち上がるとみる。一方、フレイル予防製品を広義で捉えると、口腔(こうくう)ケアに使う介護用ウエットティッシュなどの市場は18年に42億円と、既に一定規模があるという。オンラインの健康増進サービスを提供するモフの土田泰広取締役は「スマホやタブレットに慣れた高齢者も多く、潜在ニーズは高い」としつつ、「どの程度の人が、どのくらいのお金を払ってサービスを利用するかは未知数。推移を見ていきたい」と話す。(横田良平)

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