採便の保管「できれば冷蔵庫で」


9月は「がん征圧月間」。日本人のがんの中で最も患者数が多く、肺がんに次いで死亡者数が多いのが大腸がんだという。大腸がんに詳しい県民健康センター所長の松田一夫医師(64)=福井県健康管理協会副理事長=は「大腸がんは早期発見できれば、ほぼ根治可能だ」と話し、便潜血検査での正しい検体の採り方や保管方法、陽性なら精密検査を必ず受けることの大切さを訴える。大腸のがんは、腺腫(ポリープ)ががん化するものと、正常な粘膜から直接発生するものがある。早期の段階ではほとんど自覚症状がなく「ほかのがんと比べて相当進行は遅い」(松田医師)という。しかし、発見が遅れると死に至る恐れがあり、県内の部位別がん死亡者数の割合(2014~16年の平均)は、男性が肺(24・1%)や胃(14・5%)に次ぐ11・5%、女性は最も多い14・8%となっている。早期発見の第1段階は、便に血液が混じっていないか調べる便潜血検査だ。人間ドックなどで広く用いられており、受診前に2日間、便を採取したことがある人も多いだろう。ただし、松田医師によれば注意点があるという。一つ目が便の採り方で適量、正しく採ることが大切だ。大腸がんが便でこすれて出血すると、血液が便に混じるが、直腸がんからの出血では便の表面にまだらに血液が付く。そのため、大腸がんからの出血を確実に見つけるには、便の表面をまんべんなくこすって採るのがポイントという。二つ目は保管方法。「検体(便)は冷暗所、できれば冷蔵庫で保管を。常温や温かい所に長く置くと、便の中に混じっていた血液が消失して検出できなくなる」便潜血検査で陽性が確認された場合、松田医師は「必ず精密検査を受けてほしい。残念ながら県内で2019年に実施された大腸がん検診では、29%が精密検査を受けていない」と指摘する。精密検査では肛門から内視鏡を直腸に挿入し、内腔を観察する。大腸粘膜にポリープ、粘膜内にがんが見つかれば、内視鏡で切除する。従来の内視鏡治療では切除できない大きさの場合には、粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)で切除する必要も出てくる。ESDは認定施設(県内6カ所)が限られているため、医師との十分な相談が不可欠だ。内視鏡による切除ができない場合は、腹腔鏡や開腹による手術が必要になる。再発の危険性が大きい場合などは、化学療法が行われる。2018年度の県内の大腸がん検診の受診率は45・7%。全国平均より高いものの、英国や米国と比べ10~20%低いという。松田医師は「人口の年齢構成を世界人口で補正した『年齢調整死亡率』で諸外国を比べると、日本は先進国の中で最も大腸がん死亡率が高く、特に男性の死亡率が高い」とした上で「仮にリンパ節に転移していても治りやすいがんなので、命を落としてはいけない。検診を毎年正しく受けてほしい」と強調。さらに「大腸がんは肝臓や肺に転移しても、転移した病巣を切除できれば治るので、見つかっても決してあきらめないで」と話している。

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