あらゆる暴力や体罰を禁止するNHZ 前橋赤十字病院が敷地内設定


暴力や体罰に頼らない問題解決を広めるため、群馬県の前橋赤十字病院(中野実院長)は病院の敷地内であらゆる暴力や体罰を禁止する「ノー・ヒット・ゾーン(NHZ=非暴力区域)」運動を始めた。院内にNHZであることを示すポスターを掲示し、小児科では体罰が子どもの健康を害することを保護者に知ってもらうよう努める。職員が暴力や体罰を目撃した場合は介入し、当事者が新たな解決方法を身に付けられるよう支援する。研修を通じて職員の対応能力を高め、他の施設にも運動を広げたい考えだ。◎米国で発祥 軽微な暴力でも大きな影響 啓発 NHZ運動は暴力を健康問題として捉え、禁煙地区と同様に院内を非暴力区域として宣言する。2005年に米・オハイオ州の小児病院が初めて実施し、12年以降、ケンタッキー州の小児病院から東海岸を中心に広がった。現在は病院だけでなく、市を挙げた取り組みが進む地域もある。 国内では4月施行の改正児童虐待防止法で親権者らによる体罰が禁止されるのを踏まえ、前橋赤十字病院小児科の溝口史剛医師らが発起人となり、「医療現場からの体罰防止を考える会」が運動を広める活動を開始。NHZ発祥地の米国で採用された発展段階のうち、ポスター掲示や職員研修を始めた同院など2施設が5段階レベルの「レベル3(基本段階)」、全国の5施設が「レベル1(検討段階)」にある。 NHZで啓発の中心となるのは子どもへの体罰防止。尻や手をたたくといった軽微な暴力でも、子どもに「暴力は効果的な問題解決法だ」という誤った学習をさせてしまう。米・ハーバード大などの研究では、月1回程度の体罰でも子どもの脳を萎縮させ、体罰がIQ(知能指数)を低下させることが判明している。 前橋赤十字病院では昨年12月ごろから、溝口医師や看護師長の柴崎広美さん、ソーシャルワーカーの中井正江さんらを中心に導入の準備を始め、5月には全職員1400人を対象に暴力や体罰に関するアンケートを実施。中心となる職員の研修を経て、7月下旬にポスター70枚を掲示した。既に、小児科でポスターを見た保護者から「自分の行動を反省した」という声も寄せられたという。 新型コロナウイルス感染症の影響もあり、今後はオンラインでの職員研修も検討する。来年度は、NHZ運動の施設であることが地域社会に認知され、他施設への導入を働き掛ける役割を担う「レベル5(応用段階)」を目指す。 中野院長は「暴力や体罰をなくすことは医療従事者の務め。病院全体で取り組み、職員一人一人が実際に動けるようにしたい」と話す。

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