豪雨被災の医療機関、爪痕大きく 他県DMAT、現場支える


熊本県南を襲った豪雨は医療機関にも大きな被害をもたらし、一部は休診や初診外来の休止を余儀なくされている。泥だらけのカルテを洗い、手作業で選別しながら診療を続ける病院も。医療従事者の疲弊が懸念される中、各都道府県から派遣された災害派遣医療チーム(DMAT)が地域医療の現場を支えている。球磨川近くに建ち、1階が天井近くまで浸水した人吉市の球磨病院。「しんどいですか?」。9日、6階の病棟でDMATの医師に呼び掛けられ、入院しているALS患者の男性(60)がベッドの上で浅くうなずいた。男性は人工呼吸器の装着が必要となり熊本市内の病院に転院することに。エレベーターは故障し、DMATの医師らが簡易型の人工呼吸器の数値を確認しながら、9人がかりで1階まで抱えて降ろした。搬送を見守った妻(50)は「災害後、気分が沈みがちで容体が悪化していた。皆さんの協力がありがたい」と声を詰まらせた。DMATは阪神大震災を教訓に国が2005年から養成を始めた。医師や看護師、連絡調整員など1チーム4~5人で構成。今回は八代・芦北と人吉・球磨の両地域に43チーム(9日現在)が入り、地元医療機関の支援のほか被災者の健康チェック、被害情報の収集などに当たっている。球磨病院には岡山、大分、滋賀のDMATが参集し、9日は入院患者6人の転院を支援した。倉敷中央病院の市川元啓医師(44)は「熊本地震の際と同様、熱中症や車中泊によりエコノミークラス症候群の原因となる静脈血栓などが出てくるはず。予防啓発にも力を入れたい」と話す。熊本県医療政策課によると、浸水被害に遭った医療機関は県内30カ所(10日現在)に上り、半数以上が人吉市に集中。同市では複数の医療機関が休診しているほか、外来診療もかかりつけ患者に限定しているところが目立つ。球磨病院も救急と初診の受け入れを休止。1階診察室が使えないため2階の保健指導室などを臨時の診察室にして、10日までに患者百数十人に対応した。泥水に沈んだカルテを洗って50音順に並べ直し、「お薬手帳」が流失した患者には診察の度にカルテを探し出す作業が必要となるなど、何とか診察を続けている状況だ。職員約200人の3分の1が被災した上、勤務計画を管理するサーバーが水没し、職員の人繰りも難航している。和田桂子看護部長(66)は「出ずっぱりの職員もおり、そろそろ休ませなければならない。外部からの応援は本当に助かる」と感謝する。人吉・球磨地域で活動するDMATの運営調整を担う徳島県の三村誠二医師(54)は「被災者の支援はもちろん、地元の医療従事者や行政関係者のケアこそ大事。現地に寄り添った支援に取り組みたい」と話した。(福井一基)

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