コロナ感染情報どこまで出せば クラスター発生の鹿児島市 専門家も分かれる見解「風評被害リスクある」「曖昧さは不安拡大」


新型コロナウイルス感染拡大と風評被害防止をどう両立させるか-。鹿児島市のショーパブで発生したクラスター(感染者集団)は、自治体の情報公開の在り方に課題を突きつけている。店舗名の公表が県内外の来店者の追跡につながっている一方、感染者の職業や詳しい行動歴などは伏せられ、県民から不安の声が上がる。専門家の間でも公表範囲への見解が分かれる。鹿児島市は2日、ショーパブ「NEW おだまLee男爵」でクラスターが発生したとして店名を発表した。担当者は「不特定多数の来店者がおり、接触者を特定することができない」と公表理由を説明。店側と協議した末の判断という。市内で医療機関に従事する50代男性は「店名公表によって、PCR検査を効果的に実施できている」と評価する。■厚労省「自治体判断」厚生労働省は感染者の情報について公表基準を設けているが、「どこまで公表するかは最終的に自治体の判断」とする。神戸市から鹿児島市に転院した80代女性を巡っては、自治体による違いが鮮明になった。神戸市は女性の職業、居住地などを発表。担当者は「感染防止とプライバシー保護のバランスを取った公表で、本人に影響はないと判断した」とする。入院先も公表しており「消毒など適切に対応し、関係者の検査も終えたと説明する方が風評リスクを低減できる」。同女性以外でも、感染者が医療従事者や入院中の場合は病院名を公表することが多いという。他方、鹿児島市は同女性の職業や神戸市からの転院先は公表していない。市の発表事項は性別と年代、居住地、簡単な行動歴にとどまる。市外在住は県名のみ公表。担当者は「誹謗中傷や、風評を恐れて検査を受けない人が増えると困る」と説明する。■出回るうわさ、中傷感染者の出た市内の専門学校などでは、根拠のないうわさや中傷が出回った。学校職員の家族やその子どもにも影響が及んだ。一方、情報の少なさに不満を持つ市民も少なくない。60代男性会社員は「リスクがある場所を知らずに訪れてしまうのが怖い」。介護職の40代女性は「市は差別防止へのお願いばかりで、不安を拭い去る姿勢とのバランスが取れていない」と漏らす。県もクラスター発生以降「個人情報保護の観点から」と感染者の職業を伏せている。中央大学人文科学研究所の高橋聡美客員研究員(精神看護学)は「幅広い公表は不安をあおり、差別につながるリスクが高い。感染者と関わりのある店舗や学校などが、必要な人に必要な情報を届ければいい」と配慮を求める。感染症の社会的影響に詳しい関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)は「情報を出さない曖昧さが不安や疑心暗鬼を広げ、かえって風評被害を拡大する恐れがある」と警鐘を鳴らす。「住民の警戒行動につなげるため、行政は小まめに、行動歴など必要な情報を出すべきだ」とし、受け取る側も「信頼できる官公庁の情報などを複数突き合わせ、風評被害を防ぐ行動を」と呼び掛けた。こうした状況を踏まえ南日本新聞など報道機関は7日、感染者の居住市町村、職業、詳細な行動歴を公表するよう市に求めた。

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