病院経営の次なる危機 収益減の脅威続く/武藤正樹氏【連載第85回】


新型コロナウイルス感染症に絡む非常事態宣言は解除され、ひとまず小康状態だ。しかし、「病院経営危機」の懸念は当面続きそうだ。3月末以降、病院の外来患者、入院患者、救急患者のいずれも減っている。外来患者は、感染回避のため外来受診の手控えが起きて減っている。入院も減少。というのは感染患者の受け入れ病院では、予定手術・予定入院を延期して空床確保を強いられたからだ。院内感染が発生した病院も、新規入院患者の受け入れを停止した。全日本病院協会の猪口雄二会長は「4月は入院・外来ともに患者が激減していることを考えれば、6月には多くの病院が資金ショートしてしまう」と危機感を示していた。なぜなら4月の患者減は、2ヵ月後の診療報酬支払い月の6月の大幅減収につながるからだ。もともと病院の利益率は低い。2018年度の国公立、民間などを合わせた一般病院全体の利益率は平均でマイナス2.7%。黒字の医療法人でも利益率は2.8%だった。そもそもこうした低い利益率のため、6月減収は病院経営にとって危険視されていた。厚生労働省は、感染者の外来や入院に対応した医療機関に診療報酬を上乗せしたり、算定要件を緩和するなどの特例を講じたが、もし、懸念される第2波などで再び患者数が減った場合は再び危機リスクが高まる。また病院の施設設備も負担が大きい。一般の患者と感染患者とを、待合室や診療室、動線などを区分し、さらに必要に応じて隔離のための設備も必要だ。一般病床を感染患者収容のために改装する病院もある。PCR検査設備、人工呼吸器のほか、特に感染防御に必要な医療用マスク、ゴーグル、フェイスシールド、長袖ディスポーザブルガウン、手袋、消毒用アルコール、防護服などの物品準備も課題だ。第1波では、コロナ離職や休職も生じた。日経メディカルOnlineアンケート調査(2020年4月)によると、回答者3058名のうち約1割の医師が、新型コロナに関連した離職や休職が所属する医療機関で発生していると回答した。こうした中、自民党の厚生労働部会や社会保障制度調査会の関係議員は、加藤勝信厚生労働相と面会し、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた追加対策として「数兆円規模の迅速な対応」を求めて緊急要請。日本医師会や病院関係団体、各種団体が要望行動を行い、20年度第2次補正予算が国会に提出され、12日に成立した。こうした経営危機は病院よりも介護施設の方が深刻かもしれない。6月危機はなんとか乗り越えても、新型コロナの脅威が続く限り、病院も介護施設も戦後最大の経営危機は終わらない。武藤正樹氏  前国際医療福祉大学大学院教授1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等 医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、「どこでもMY病院」レセプト活用分科会座長(内閣府)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長

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