テルモ、糖尿病注射いらず AIがインスリン自動投与


テルモが糖尿病のインスリン注射を自分で打たずにすむシステムを開発中だ。体に貼る血糖測定器とポンプが連携し、血糖値などの情報を人工知能(AI)が解析して最適な量を自動で投与する。機器が生むデータをスタートアップと生かし、糖尿病事業を2.5倍の500億円に拡大する。テルモが開発するのは「人工すい臓」。親指などから採血して血糖値を測り、1日に何度もインスリン注射が必要な1型糖尿病患者が対象だ。患者の上腕などに小型の血糖測定器を貼り、極細の針で体液から血糖値を5分間隔で自動測定。このデータに、スマホ型端末で管理する食事や運動の情報を合わせて、AIが最適なインスリンの量を算出する。その結果を腹部に貼り付けた「インスリンポンプ」が受信し、本物のすい臓がインスリンを分泌するように持続的に自動投与する。インスリンの注射は医師の指導を受ければ、患者自身が打つことができる。インスリンポンプ単体では薬事承認を得て2018年から国内で販売している。必要なインスリンの量などを入力しておけば設定したタイミングで投与される。今後はAIが自動制御するシステムでの承認と保険適用を目指し、数年内に実用化したい考えだ。国際糖尿病連合の予測では、世界の糖尿病患者は19年の4億6300万人から30年には5億7800万人に増える。1型糖尿病は一般的に5~10%を占めるとされる。1型糖尿病の患者は頻繁な採血とインスリン注射で、治療は痛みとの戦いだ。月1回程度の通院も負担になっている。人工すい臓は自分で注射を打つ苦痛から解放するうえ、血糖管理の精度を向上させ合併症リスクを減らすことが期待できる。血糖値や投与の詳細な履歴管理は治療の質を向上させる。医師とデータをネットで共有できるようになれば、オンライン診療と組み合わせて通院回数を減らし、医療の効率化や医療費削減につながる可能性もある。テルモの佐藤慎次郎社長は、「AIやクラウドで患者のデータを活用したソリューションを提供していく」と話す。医療機器のみの販売から、病院を通じて継続的に患者を支援して稼ぐ事業への転換を目指す。人工すい臓はモデルケースだ。事業モデルの転換を目指す背景には、医療を取り巻く環境変化がある。米アップルが腕時計型端末「アップルウオッチ」に心電図の計測機能を搭載。米グーグルが米病院運営大手と提携するなど、データの活用を巡る競争が激しくなっている。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進室の大森真二室長は「体の中のデータにはGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)も近づきにくい」と見る。自社の強みを生かしたデータ活用を推進する道を探った。テルモの強みは、医療機器で患者が生み出すデータの入り口や出口を押さえていることだ。人工すい臓ならインスリンポンプが出口に当たる。データ解析を受けて微量のインスリンを正確に持続的に投与するうえで、点滴の輸液ポンプや注射針などの技術が生きた。人工すい臓は海外勢も手掛けるが小型の貼り付け式はテルモ独自だ。足りない技術はスタートアップと提携して確保した。腕に貼る血糖測定器は米デクスコム、データ解析のアルゴリズムは仏ダイアべループと組んだ。強みを軸に協業を広げ、200億円程度の糖尿病事業を30年度には500億円にする計画だ。テルモは売上高の4割強を占めるカテーテル(医療用細管)などでもデータ活用を進める。鮫島光常務執行役員は「点と点の戦いから線での戦いにシフトする」と言う。

関連記事

ページ上部へ戻る