【トップインタビュー】社会保障、制度改革へ 40年に向け処遇改善、DXで人材確保


2040年には、認知症者は約800万人、単身高齢世帯も約900万世帯となり、首都圏を中心に高齢者が増加し、介護や医療のニーズが高まることが推測されている。介護保険制度創設から20年以上が経ち、要介護認定者の増加に当たり持続可能性を踏まえた制度の見直しも必要だ。介護保険制度改革、地域医療構想、40年にあるべき医療・介護の社会保障などについて、大家敏志財務副大臣に話を聞いた。「地域医療構想」推進 日本に望ましい介護保険を――介護保険制度改革における負担と給付の見直しについて。 大家 2024年度から始まる次期計画期間に向けた議論が、厚生労働省の介護保険部会において始まっています。地域包括ケアシステムの深化に加えて、介護現場の生産性向上の推進や、負担と給付の見直しについても、今後議論が進んでいくと考えています。軽度者向けサービスや利用者負担については、現在の計画期間においても、各種のご意見があったと認識しています。介護保険制度の改革は、利用者・事業者への影響なども考慮しつつ、制度の持続可能性や直面している課題の解決に向けて、建設的に議論を進めていくべきです。――欧米の介護保険改革をどの程度参考にしていくべきか。 大家 介護保険制度に限らず、制度の検討に当たっては、諸外国の例も参考としながら進めていくことが重要だと考えています。一方、社会構造や価値観が異なる諸外国の制度の例をそのまま我が国に持ってくることは必ずしも適当ではありません。ドイツ・オランダは、介護に社会保険制度を導入しているといった点で日本と共通します。しかし、両国は施設介護より在宅介護を重視しており、介護保険がカバーする範囲も日本より狭いです。介護の問題を考える上では、高齢者の所得保障や家族・労働施策も密接に関連する問題であり、それらも併せて考えていく必要があります。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ということかと思いますが、制度の背景にある社会構造や価値観、関連する諸政策の違いを踏まえた上で、参考にすべき点は参考にしつつ、我が国にとって望ましい介護保険制度を検討していかなければなりません。――介護人材不足の対策について。 大家 介護人材確保に向けた鍵は、処遇改善と介護DXの2つにあると考えています。処遇改善については、これまで累次の処遇改善を講じてきたところですが、いまだ全産業平均との差は大きく、人材確保に支障をきたしています。岸田政権においては、「成長と分配の好循環」を実現すべく、現場の最前線で働いている介護職員の収入を3%程度(月額9000円相当)引き上げる措置を2月から講じています。引き続き、人材不足の解消に向けて、その重要な職務内容に鑑み、適正な水準まで引き上げることを目指し、取り組んでいくことが必要です。――介護DXの目指すものとは。 大家 業務負担軽減や処遇改善に向けた生産性向上の観点から、しっかりと取り組んでいく必要があります。例えば、介護施設では、業務上移動を要することが多く、職員もそれぞれ離れた場所で業務を行っています。利用者のことなどで協力や相談する時間が必要ですが、インカムを活用することで、余計な移動を伴うことなく、情報をリアルタイムで共有することができます。ICT・ロボットの活用についても、政府として導入支援を進めるべきです。ICTの使用を条件に夜間の人員配置基準の緩和なども行っています。今後も、介護現場のニーズを踏まえた機器の開発・導入を進め、業務負担軽減や生産性向上につなげていく必要があると思います。――民間病院が多い日本で、地域医療構想をどのように進めていくべきか。 大家 人口減少・高齢化が進む中で、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築していくためには、将来の医療ニーズの質と量を十分に見極めて、医療機関の機能分化・連携を進めていくべきです。政府としては2025年に向けて地域医療構想を推進しています。日本においては、欧米諸国と異なり、民間病院がその数で約7割、病床数でも5割以上多いです。マクロでは、地域医療構想を着実に進めなければ共倒れということになりかねませんが、ミクロでは、各病院の経営の問題に関わるため、容易ではありません。民間病院が多い日本においても、地域医療連携推進法人を活用し、機能分化が進んでいる事例も生まれ始めています。こうした好事例を参考としつつ、地域医療構想調整会議の場でしっかりと議論を行っていただくとともに、政府としてもしっかり支援を行っていきたいです。地域医療構想は、25年で終わるものではないと考えています。更なる人口減少・高齢化は避けることはできず、こうした取り組みの手を緩めることはできません。今後、地域医療構想のバージョンアップが求められるのではないでしょうか。――2040年にあるべき医療・介護の社会保障の姿とは。 大家 今後の社会保障を考えていくに当たって、高齢者数がピークを迎える2040年は1つの指標となる年です。40年に向けて、「時間軸」「地域軸」をしっかりと頭に入れた上で、足元の課題のみならず、中期的・長期的な課題にも取り組んでいく必要があります。誰しも病気になるリスクは抱えていますし、年老いたときに介護が必要となる場面が出てきます。国民の皆様が、今後も安心して医療・介護サービスを享受できるようにしていくことが政治の責務です。私はこれまで、自民党介護福祉議員連盟、地域の介護と福祉を考える参議院議員の会の事務局長として、介護を中心に社会保障に関する仕事に取り組んできました。今後とも、政治の責務をしっかり果たせるよう、職務を全うしていきたいと考えています。

関連記事

ページ上部へ戻る