がんで家族亡くした人の悲しみ癒やすには 支援ガイドライン作成


がんなどで大切な人を亡くした遺族らを支援するための指針「遺族ケアガイドライン」を、がんと心の関係を扱う専門医らで作る日本サイコオンコロジー学会など2学会が初めて作成した。遺族の悲しみの経過や支援の方法、心理的苦痛が強い場合の治療などについてまとめている。周囲の人への言葉のかけ方や関わり方などの注意点も記載しており、医療従事者以外の人にも参考になりそうだ。日本では年間約38万人ががんで亡くなり、死亡原因で最も多い。がん患者の家族は介護だけでなく心理的な負担も大きく「第二の患者」とも言われる。国立がん研究センターによるがん患者の遺族調査(2019~20年)では、死別から1~2年たっても約20%の人に抑うつ症状があり、約30%に強い悲嘆があった。ガイドラインによると、死別後の悲しみは多くの場合、時間とともに軽減していくが、悲しみが長引いて日常生活に支障が出たり健康状態に影響が出たりすると、適切なケアや専門的な治療が必要になることがある。遺族への支援では、丁寧に話を聞くことや、思いやりのあるコミュニケーションなどが基本となる。ただ、遺族の悲しみを和らげようとする周囲の人からの言葉のかけ方が、逆効果となることもあると紹介している。例えば、「寿命だったのよ」や「気づかなかったの?」「いつまでも悲しまないで」などといったもの。特に配偶者を亡くした人はこうした言葉で精神的に追い詰められる傾向があり、注意すべきだとしている。悲しみを癒やしていく過程では、遺族が十分に悲しんだ上で、その悲しみを表に出すことが必要だという。安心して話せる場を整えることも支えになる。命日や亡くなった人の誕生日、思い出の日などには、「記念日反応」と呼ばれ悲しみが強く表れることがある。また、仕事などに没頭して悲しみに向き合うことを避けていると、回復が遅れることもあり、悲しみに向き合うことと、新しい生活に向かうことの両方のバランスが重要としている。同学会の松岡弘道・国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科長は「コラムではがん患者や家族の声も紹介しており、一般の人にも関心を持ってほしい。それが、社会全体で遺族を支えることにもつながると思う」と話す。遺族が語り合える場を長年開いてきた「がん遺族会 青空の会」(東京都)の中野貞彦代表は「病院でも遺族外来や遺族会などを設ける動きが見られるが、学会全体として問題意識を持つことは一歩前進だと思う。一人一人が抱える問題に向き合うことが大切で、悲しみを持ったまま生きていくことも認めながら支援してほしい」と話す。遺族ケアガイドラインは、全国の大型書店やインターネットなどで購入が可能。【下桐実雅子】・家族との死別は強いストレス・多くの遺族は自分の力で悲しみから回復していく・遺族の支援では、安心して話せる場や、そっと寄り添う人がいることが大きな支えになる。支援は死別の悲しみを取り去るためではなく、悲しみを抱えながらも希望を見いだし、人生を再出発するために行われる・遺族は周囲からの言葉のかけ方や態度によってつらい気持ちになることがある・患者が生存中から「患者の家族」としてではなく、「悩みを抱える人」として向き合うことを心がける・悲嘆が長引き心理的苦痛が強い「複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)」の場合は、薬の治療ではなく認知行動療法が有効とされる

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