岡山大中性子医療研究センター(岡山市)の道上宏之准教授(がん研究創薬)らのグループは、最先端のがん放射線治療「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」に使う新しい薬剤を開発した。従来の薬剤に比べ、がん細胞に取り込まれる量が多く、高い治療効果が見込める。5年後の臨床試験(治験)着手を目指す。 BNCTは、がん細胞に集まる性質を持つホウ素製剤を投与し、体外から中性子を照射する治療法。中性子を浴びたホウ素は分裂してアルファ線などを出し、がん細胞だけを死滅させる。昨年6月に保険適用されたが、グループによると、認可されたホウ素製剤は1種類しかなく、頭頸部(けいぶ)のがんの治療にしか使用できないという。 グループは、ホウ素を多く含むが、がん細胞に取り込まれにくい既存の薬剤「BSH」に着目。がんに取り込まれやすい性質を持ち、臨床研究でがん治療に使われているペプチド(アミノ酸化合物)と組み合わせた薬剤「A6K/BSH」を新たに作った。 この薬剤を、脳にがん細胞を移植したマウスに投与。12時間後に観察した結果、薬剤はがん組織に多く集積していた。 がん細胞に薬剤を直接投与し、中性子を30分間照射する別の実験を行ったところ、その大半を死滅させる効果があった。 道上准教授は「頭頸部だけでなく、他のがんに効く可能性もある。治療の選択肢を広げるため、研究を急ぎたい」としている。 今後、治療効果と安全性を確かめる臨床研究への準備を進め、治験につなげる。今回の研究成果は昨年11月、国際科学誌に掲載された。 BNCTは、大阪医大の関西BNCT共同医療センター(大阪府高槻市)と南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)の2カ所で受けられる。 BNCTに詳しい平塚純一・川崎医療福祉大診療放射線技術学科長の話 BNCTをさまざまながん治療に適用させるには、がんへの集積性がより高いホウ素製剤の開発が欠かせない。今回の新しい薬剤は、既存製剤と既に安全性が担保されているペプチドの組み合わせで簡単に作れ、有望な薬剤。BNCT研究に大きなインパクトを与える成果といえるだろう。