古里岩手県釜石市の医師不足解消に少しでも貢献したいと、仙台市の眼科医佐渡一成さん(59)が12月上旬、Uターンして「かまいしベイ眼科クリニック」を開業する。東日本大震災で被災した住民も多いだけに、患者が安心して利用できる診療所を目指す。 開業するのは、市中心部にある商業施設イオンタウン釜石の建物内で、公共交通や自家用車で訪れやすい場所を選んだ。 利便性を考え、土曜や一部日曜も診療する。手術は行わず、必要と判断した場合は適切な医療機関に紹介する。手術は設備やスタッフをそろえなければならず、準備に時間がかかる。その分、多くの患者を診ようと考えた。 紹介先の医療機関の理解が得られれば、手術翌日の診療を引き受ける方針。遠隔地に宿泊したり、出向いたりしなくて済み、患者の負担が少なくなるという。 佐渡さんは「アイデアはいろいろあるが、実際に開業してみないと分からない」と言いながら、オンライン診療や訪問診療に意欲を示す。症状が安定しているなら、オンラインを組み合わせることで通院の頻度を減らせると説く。 順天堂大医学部を卒業後、岩手県立磐井病院(一関市)や母校の講師などを経て、2000年に地縁血縁のない仙台にさど眼科を開業した。「当時、釜石の医療は眼科も含め、それなりに充足していた。私が開業する余地はなかった」と振り返る。 しかしその後、医師不足が進み、東日本大震災で深刻化した。 今年8月に厚生労働省が示した医師の充足状況を示す医師偏在指標で、釜石は全国に335ある2次医療圏の中で324位の119.3。眼科医が足りないという古里の声が佐渡さんに届くようになった。実家は津波で流され、仮設住宅から災害公営住宅へと移った母(83)の存在も決断を後押しした。 「医師を含めて若くして古里に戻り、頑張っている人は多い。彼らの方が素晴らしい」と謙遜する佐渡さん。仙台市青葉区の診療所は今月14日に閉じ、場所とスタッフを後輩医師に引き継ぐ。 「眼科全般を広く診断できるのが私の強み。還暦寸前の開業なので、長く続けるのが目標だ。地域に最も役に立つ医療を模索したい」と抱負を語った。 釜石医師会の小泉嘉明会長(75)は「大歓迎だ。医師の不足と高齢化が進んでいる。新しいことに挑戦してほしい。全面的に支援する」と話した。 新しい診療所は木曜休診で土曜は午前、午後とも診療。日曜も第1、第3は予約制で午前診療を行う。