「3密回避は困難」「覚悟決めた」 保育所の葛藤


新型コロナウイルスの患者対応で最前線に立つ医療従事者。高い感染リスクにさらされる医師や看護師らの子どもを預かる保育所も、対策に神経をとがらせている。政府の専門家会議(廃止)は「新しい生活様式」として、人との間隔を最低1メートル空ける▽食事は横並びで座る-などの実践例を示したが、保育の現場は抱っこをしたり、食事をさせたり。保育士は「実情に合わない」と不安を抱えつつも、懸命に役割を果たしている。(佐藤健介)「怖い。自分がかからないか。子どもにうつさないか。医療職の親に伝染させ、医療が崩壊しないか」神戸市内の病院にある院内保育所で、40代の女性保育園長は不安を吐露した。付属医療機関で働く医師や看護師、理学療法士、薬剤師、技師らの子ども数十人を預かる。提携する医療機関に応援勤務に入る保護者もいて、常にコロナ感染の危険にさらされている。保育中に発熱した園児がいて保護者に連絡したが、「診察を優先せざるを得ない状況」としてすぐに迎えにこられなかった。園児は別室で休ませ、園長が付き添った。「もしもコロナならうつるかもしれない。でも、つらい思いをする子をほうっておけない。覚悟を決めた」と振り返る。「園の子どもたちや、体調の優れない自分の家族にうつす前に身を引きたい」と、退職を申し出たベテラン保育士もいた。説得して思いとどまってもらったが、約2カ月も休職した。緊急事態宣言で自主休園した他の保育所に通う医師の子ども2人を、約1カ月間受け入れたこともある。園長は「コロナ禍で院内保育所の使命を改めて認識した。運営を続けて、医療機関とともに頑張らなければいけない」と強調する。園では、手洗いや検温、消毒などを徹底している。だが要請される「3密」回避には「遊びに集中している時に『間隔を空けてね』と言うのは無理だ。食事の時間をずらせば、生活リズムが崩れかねない。命を守るのはもちろん大切だが、発達に悪い影響を及ぼさないか」と語る。一般の保育施設も苦心は同じだ。神戸市の私立保育園では緊急事態宣言の発令中に医療従事者が「迷惑をかけたくない」と登園を控えたケースもあった。感染予防策は講じられるが、ある保育士は「抱っこ、触れ合い、寄り添いこそが日常であり、成長の糧。『密』はどうしても避けられない。新様式通りの行動は無理だ」と嘆く。淡路島や神戸市で認定こども園を運営する社会福祉法人「みかり会」(兵庫県南あわじ市)の谷村誠理事長(58)は「現場に矛盾が生じている。感染症の専門家が『保育で3密をなくすのは難しい』という事実を認めた上で有効策を考えてほしい」と訴える。

関連記事

ページ上部へ戻る