福島医大医学部循環器内科学講座の医師による研究グループは、心臓の病気の中で死因として最も多い心不全の原因の一つを突き止めた。高血圧などの負荷がかかると、心臓にある白血球の防御機能が働き、心筋細胞の器官に悪影響を及ぼして心不全を引き起こす。マウスによる実験で防御機能に必要な酵素の遺伝子を改変したところ、発症を抑えられるとの成果を得た。心不全の患者は全国で約120万人に上る。研究グループは予防のための新薬開発の第一歩になるとしている。福島医大が17日発表した。研究概要は【図】の通り。研究グループは心不全を引き起こす可能性がある重い心臓病「拡張型心筋症」の患者62人を対象に研究し、約半数の30人に白血球の一種である「好中球」による防御機能があることを確認した。防御機能がない患者と比べ、将来的に入院や人工心臓の利用を余儀なくされたり、突然死したりする傾向があると明らかにした。防御機能と心不全の関係を調べるため、マウスを用いて分子レベルで解析した。心筋細胞内で心臓を動かすエネルギーを作る器官「ミトコンドリア」の機能面に着目し、遺伝子改変で防御機能の必須酵素を欠損させた。この結果、防御機能が抑制され、ミトコンドリアの機能が維持されて心不全の発症を防ぐことが分かった。防御機能の形成がミトコンドリアの機能に悪影響を与え、心不全の発症につながると結論付けた。マウスの心臓に負荷をかけると防御機能が誘発されることも判明した。防御機能の必須酵素を欠損させたマウスは心臓に負荷をかけても、ミトコンドリアの機能が保たれた。研究グループは高血圧など心臓への負担が大きい人は防御機能が働く可能性があるとみている。研究グループは約3年かけて研究に取り組んだ。今後はマウスを使って副作用を確認するなど新薬開発に向けた研究開発を本格化させる方針。グループの市村祥平医師、三阪智史講師は「新たな治療標的を分子レベルで突き止めたことがポイント。防御機能の必須酵素を阻害する薬を開発できれば心不全の発症を減らせる」と話した。循環器専門医の坂本信雄医師(福島市・この花内科クリニック院長)は「人体の治療法の開発につながる可能性がある。臨床に目を向けた研究だ」とした。研究成果は、心不全分野で権威がある米国の科学誌「サーキュレーション:ハートフェイラー」のオンライン版に掲載された。※心不全 心臓のポンプとしての機能が低下し、全身に必要な血液を十分に送れなくなる病気。息切れやむくみが起こり、次第に悪化して生命を縮める。拡張型心筋症や不整脈、心筋梗塞などの疾患の最終段階とされる。心不全の患者は高齢化に伴って増加しており、5年生存率は50%程度。