テクノロジー導入支援 介護事業者と企業つなぐ「リビングラボ」と「相談窓口」


厚生労働省は「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム事業(以下・プラットフォーム事業)」として、相談窓口17ヵ所・リビングラボ8ヵ所を全国各所に設置している。相談窓口では、介護事業者からテクノロジーの導入・活用に関する相談と、開発企業から製品の開発などに関する相談を受け付ける。リビングラボでは、ニーズを踏まえた製品の評価・検証を行い、開発企業等をサポート。今回は、中でも注目の相談窓口とリビングラボを紹介する。◆横浜市総合リハビリテーションセンター介護ロボット相談窓口◆見守りセンサー9種、比較可能横浜市の指定管者として、社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団が運営する「横浜市総合リハビリテーションセンター」。同法人はPTやOT、建築士、エンジニアなど20職種以上が在籍。高齢者の生活動作や介助者の動作に精通する。多職種が協業し、数多くの高齢者宅へ訪問、支援してきた。3ヵ所運営する「福祉機器支援センター」では、福祉機器の展示や試用体験、助言を行ってきた実績もある。プラットフォーム事業の相談窓口としては、東京都・神奈川県・山梨県エリアを対象に介護事業者・メーカーからの相談に応じている。昨年、介護事業者からの相談は40件以上対応。「導入したいが、どのような機器があるのか」といった相談内容が多い。センターには経済産業省と厚労省が公表する「ロボット技術の介護利用における重点分野」の介護ロボットを計21種類展示。例えば、見守りセンサー9種類や移乗支援機器5種類など。実際に触って体験し、各メーカーの機器を比較できる。アドバイザーが中立的な立場で課題をヒアリングし、機器を紹介。他社の導入事例の紹介も可能だ。そのほか助成金・基金の紹介、セミナーの実施なども行う。「トップダウンではなく、経営者と現場職員がチームを組み、共に展示の見学にくるような法人が上手くいっている印象です」(粂田課長)一方、メーカーからの相談は、昨年は80件対応。現場のニーズを伝えるほか、センターの研究開発課で共同開発する場合もある。また、リビングラボへの取り次ぎも行う。 「メーカー側がベストだと思っている仕様でも、現場で実際に活用するには適さないケースもある。何が現場に求められるか、一緒に考えていく必要がある」(粂田課長)今年度中には、ピックアップした3施設へメーカーと共に足を運び、導入・活用できるよう伴走型で支援する計画。自治体とのつながりを活かしつつ、介護事業者や業界団体とネットワークを強化することで、介護ロボットの体験導入・定着の促進を目指す。◆東北大学青葉山リビングラボ◆2050年見据え開発支援東北大学(仙台市)が運営する東北大学青葉山リビングラボは、「近い将来に適応できる現実的な解決策」と「2050年の未来を想定した画期的な解決策」の両輪を見据え研究している点が特徴。工学研究科の平田泰久教授のほか、訪問リハビリなどに従事し、ニーズに理解のあるメンバーを揃える。約250平米のスペースに施設と在宅を模した環境を構築し、研究開発に必要な各種計測装置を完備する。 昨年度は10件以上のメーカーや介護事業者からの相談に対応。一例として、排泄感知システムのメーカーに実証協力施設を紹介。その実証結果を受け、ニーズ観点から改良点やマーケティングに関する助言を行った。今後は計測装置を利用した科学的な検証を支援する予定。加えて、複数の機器が連携して介護を行う「協調型介護支援システム」の構築支援に力点を置く。例えば、ベッドの昇降や見守りセンサー、家電、スマートフォン、AIスピーカーなどを全てIoTでつなげ、チャットや声で指示すれば各機器が動くようにする。この仕組みをメーカーに紹介し、介護現場での活用を推進している。「優れたロボットを1つ作れば役に立つわけではない。人により様々な課題、考えがある。技術や機器をうまく組み合わせることで本当に必要な部分をアシストできる可能性が広がる」(平田教授)並行して2050年に向けて取り組むのが、「JSTムーンショット型研究開発制度のプロジェクト」。困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される野心的な目標(ムーンショット)に向け、国が推進するものだ。具体的には、立ち上がり支援のために個々人の体型や動きに合わせて変形するロボット、指の動きをアシストするセンシングウェアなど、人や環境に合わせて対応する「適応自在ロボット」を多数開発中。「同プロジェクトに取り組んでいるからこそ、未来の視点を持ちディスカッションができるラボとなっている。メーカー同士で機器を連携するなど、共に次世代介護ロボットの研究開発ができる仲間を増やしたい」(平田教授)

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