出荷調整情報の公的提供を


原薬への異物混入や、承認内容と異なる製造に対する業務停止処分などの影響で、医療用医薬品の自主回収や出荷停止、出荷調整等が相次いでいる。特に今年に入ってから、小林化工や日医工に対する業務停止命令などによって対象品目が大幅に増えた。ある有効成分の医薬品の供給が滞ると、他社が販売する同一成分の医薬品や同種同効薬のニーズが高まる。しかし、製薬企業の供給能力には限度がある。自社品を使用している患者への供給を確保するため、新規取引先への供給を見合わせざるを得ない場合もある。こうして芋づる式に出荷調整の対象品が増加し、収束の見通しは立っていない。影響を大きく受けているのが、病院や薬局などの医療現場や医薬品卸だ。患者の不利益を最小限に食い止めようと、採用医薬品の中で供給不足が見込まれるものはどれなのかを把握し、必要に応じて代替の医薬品を選定して確保する作業に追われている。医薬品卸のMSも、代替薬の手配や紹介、処方元への薬剤変更依頼に業務の過半を割く状況になっている。医薬品安定供給の強化に向けて多方面での取り組みが必要となるが、対症療法的にすぐ取り組むべきことの一つは、供給不足が見込まれる医薬品の把握や代替薬の選定を支援する仕組みの構築だ。各製薬企業が自社ウェブサイトで発信する出荷調整等の全ての情報を、医療従事者らがくまなく確認するのは難しい。こうした中、薬局薬剤師ら有志が協力し、各製薬企業が発する出荷調整、出荷停止、販売中止、措置解除の情報をまとめたウェブサイト「医療用医薬品供給状況データベース」が9月上旬に立ち上がった。当初は二十数人の有志で集中的に作業し、現在は4人の薬局薬剤師が情報更新を続けている。「とても役立つ」と関係者の反響は大きい。メンバーに話を聞くと、製薬企業の情報発信様式はばらついているため、情報を一つずつ目で見て評価しており、この作業に時間を要するという。各社共通の様式で出荷調整等の情報が発信されるようになれば、作業の自動化も可能になるかもしれない。業界全体で話し合いを進め、それを実現できないだろうか。出荷調整等の情報をウェブサイトで発信しない製薬企業や、措置の解除を通知しない製薬企業もあるという。情報を隠さずタイムリーに発信する姿勢も求められる。自分の時間を割きボランティアで取り組む薬剤師有志の活動には頭が下がる。ただ、業界全体がいつまでもそれに依存してはいけない。厚生労働省医政局の来年度概算要求には新規案件として「医療用医薬品の供給に関する情報提供サイト等の検討事業」が盛り込まれた。しかし、来年度からの検討開始では遅すぎる。「医療用医薬品供給状況データベース」を引き継ぐなど、早急に公的な情報提供サイトの構築に着手すべきではないか。

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