京都大iPS細胞研究所の高橋淳所長らの研究チームは、パーキンソン病の患者にヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った細胞を移植した世界初の臨床試験(治験)で、有効性を評価した6人のうち4人の症状が改善したと発表した。薬を服用しなければ自力で立ち上がれない患者が、立ったり歩いたりできる時もあった。高橋所長は「症例は少ないが、しっかりとした結果が示せた」と述べた。研究成果は、16日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載された。パーキンソン病は脳内で情報を伝える物質「ドーパミン」を作る神経細胞が徐々に減って発症する難病。日本には約29万人の患者がいるとされる。ドーパミンを薬で補充する対症療法が中心だが、神経細胞の減少を食い止める根本的な治療法もない。治験は50~69歳の患者を対象に、2018年8月から開始。他人由来のiPS細胞から作った神経細胞のもととなる細胞を、それぞれの脳に500万~1000万個移植し、2年にわたってドーパミンの生成状況や患者の症状などを観察した。その結果、安全性のみを確認した最初の患者を除いた6人全員の脳内でドーパミンが生成されていることを確認。より多くの細胞を移植した患者の方が生成量も多かったとみられる。いずれも後遺症などの重い有害事象はなく、移植した細胞ががん化するリスクもみられなかった。また、移植前後で患者の運動機能を比較したところ、ドーパミンを補充する薬を摂取していない時でも患者4人の症状が改善。薬を併用した場合は、5人の症状が軽くなった。特に若くて症状が進行していない患者ほど効果が高い傾向があった。高橋所長は記者会見で「症状が改善した患者がいることはうれしく思うし、治験を受けてくれた患者に感謝したい」と話した。一方、移植の前後における生活の質の変化について患者に調査したところ、大きな変化はみられなかった。治験責任医師を務めた京大の高橋良輔特定教授は「今後の課題。改善に向け取り組みたい」と述べた。治験データをもとに大阪市の「住友ファーマ」が再生医療等製品として国に製造販売承認を申請する見通しといい、高橋所長は「年内にも承認が下りることを目指したい」と語った。【中村園子】