第57回日本薬剤師会学術大会日本薬剤師会は6月の定時総会で、岩月進会長による新体制を発足した。地域薬剤師会を主体に都道府県薬剤師会、日薬とボトムアップによる3層構造体制に転換を図り、開局薬剤師中心から製薬、医薬品卸、大学教員、行政といった様々な業種に従事する薬剤師の声を代弁できる組織を目指す。岩月氏に今後の最優先課題や規制改革に対するスタンス、セルフケア・セルフメディケーション推進などに対する考えを聞いた。――日薬にとって最優先課題は。開局薬剤師では医薬品提供体制の質を担保しながら、全国のどこにでも医薬品を提供できるようにするのが目標だ。製造業や卸、病院薬剤師など様々な分野で薬剤師が不足しているという声があるので、薬剤師会として薬に関する人的な供給問題について働きかけを行っていかなければならない。まずは薬剤師会の3層構造に対する意識を変えることが必要だ。地域薬剤師会が関係職種や行政と一緒になり、薬剤師免許を使って地域にどう貢献していくのか各地域で議論し、今一度自分たちとその周りを見つめ直し、何ができるのか、何をしなければならないのかを確認していただきたい。時間や予算、人数が十分でない地域薬剤師会には都道府県薬剤師会が手を差し伸べ、地域薬剤師会をサポートする。地域薬剤師会が対応できない時に支援を求めるのは、隣の薬剤師会でもいいし、都道府県の薬剤師会であってもいい。地域薬剤師会主体の活動が浸透すれば、地域薬剤師会間のつながりも生まれる。――都道府県薬の役割は。現場に目が届くところにいるので、各都道府県内での医薬品提供体制ができているのかを把握し、弱い部分があれば補強していく役割になる。病院薬剤師の偏在問題は地域薬剤師会だけでは解決しにくく、都道府県薬が課題解決に乗り出していくことになると思う。――都道府県薬が地域薬剤師会をサポートするが、日薬の役割は。薬剤師の免許を守る団体であるべき。開局者だけの薬剤師会では決してないのでメーカーや卸、大学薬学部・薬科大学など総力を挙げて対応していく。日薬の委員会でカバーできないところは部会で対応する。開局薬剤師以外の医薬品卸、医薬品製造業等の職域については各部会で担っていただく。薬剤師免許をないがしろにする動きには徹底的に戦う。薬剤師約32万人、薬局約6万3000軒の体制を生かし、人手が不足している領域は自分たちで穴を埋めていく努力をしないといけない。開局薬剤師だけではなく、創薬や治験、製造業、流通業、病院薬剤師と、大学薬学部・薬科大学には人材を供給していく責任がある。新体制では大学教員薬剤師部会を立ち上げた。大学教員薬剤師部会では、他の委員会と連携を図りつつ、人材の供給問題や教育研究に係る諸課題について検討していく。学生の就職に関わる大学教員の方々が薬学の様々な分野で人材を送り出したい強い思いがあったかについては疑問と言わざるを得ない。われわれも言うべきことを言ってこなかった反省もある。医薬品製造業の総括責任者が不足しているという問題をめぐっては本来、製薬企業と日薬、大学が学生の進路をどうするのかを話し合っておかなくてはいけなかった。いったん薬剤師免許のない人に製造所の管理者を認めるとなると、絶対に元には戻らないので、大学と製薬企業、薬剤師会、行政が一堂に集まり、薬剤師が免許を使って様々な分野でどのような社会貢献をしていくのかを意見交換する場が必要だ。79ある大学薬学部・薬科大学が一つにまとまるのは良い部分もあるが、大学の特色をもっと出すことも必要ではないか。例えば、精神科に特化した薬剤師を養成する薬学部があっていい。日本はOECDで最も薬剤師数が多いので、薬剤師免許を持って海外で働く薬剤師がもっと増えても良いのではないか。一方、現場の薬剤師に対しても、製薬企業の医薬品製造現場や医薬品卸の実態などに関心を持っていただけるよう働きかけていきたい。――ドラッグストアではツルハ・ウエルシアの統合、異業種ではウーバーやアマゾンのような新たな業態が登場している。薬局にとり最も大事なのはマーケットリサーチとカスタマーマネジメントで、地域の資源や需要者の分析に加えて市場動向を知ることと、どの様な地域住民がいるのかという視点での顧客管理が求められる。ドラッグストアは多くのOTC医薬品を品揃えするが、従業員は通勤者がほとんどで夜間・休日対応には課題があるのではないか。中小薬局でも地域にどんな住民がいて、どんなサービスを欲しているのかを把握できていれば十分に対応できると思う。災害時には難病や特定疾患、透析の患者等に対して特別な対応が必要になり、こうした患者がどこに住んでいて緊急時にどうやってバックアップするかを考えていくことも薬局のカスタマーマネジメントにつながる。こうした取り組みを通じて地域課題を理解すれば、プラットフォーマーでは実施しにくい部分を、小回りの利く地域薬局であれば対応できる。――医薬品販売制度の見直しに対する日薬のスタンスは。薬剤師が販売すべき医薬品なのか、薬剤師・登録販売者のどちらでも販売可能な医薬品なのか、医薬品のリスク管理に則って販売責任を明確化することが重要。薬剤師がOTC医薬品のリスクについて評価し、登録販売者の情報提供により適切に使用できる範囲に限り、その医薬品の販売を認めるのが望ましい。スイッチ化したOTC医薬品を要指導医薬品に留め置くことも当然あり得る。濫用の恐れのある医薬品の買い回りを防ぐ有効な手段は一様ではないが、薬剤師や登録販売者が適切に情報提供を行い、販売を断る対応も必要。少なくとも濫用の恐れのある医薬品について大包装品は販売すべきではない。大包装品を求める購入者には、購入理由を聞いた上で販売するかを薬剤師が適切に判断する必要がある。――「容認」「条件付き容認」「反対」で答えてほしい。敷地内薬局への対応は。絶対に「反対」だ。本来の医薬分業とは言えない。ただ、設置済みの敷地内薬局をどうするかは今後の議論になる。地域でどう取り扱うのか協議していくことが必要だ。――調剤の一部外部委託は。「調剤の一部外部委託」という言葉は正確ではなく、「調剤業務における調製業務の一部外部委託」だ。大阪市で特区が既にスタートしており、それ自体について容認、反対のコメントはしないが、患者への説明は別にして、薬局間の取り決めとして調製行為の一部を外部に委託した場合に、受託薬局の調製行為に関する説明責任はどうなるのか。例えば、分包機の吸湿性や遮光性などは精度管理できているのか。第三者機関からその品質を十分に保証されるものなのか不透明な部分もある。――ワクチン接種について。薬剤師職能で言えば「ワクチン投与」はやるべきだと思う。診断は医師の専権事項なのでそこに踏み込むわけにはいかないが、侵襲性の問題は別に議論するとして、海外の事例を参考にしながら薬剤師が実施する検討の余地はあるのではないか。今後、未曽有の災害や感染症の蔓延が起き、薬剤師による「ワクチン投与」が必要になった際、即座に対応することができるよう準備はしておく必要がある。――訪問看護ステーションの薬剤配置拡大は。断固として反対だ。医薬品を訪問看護ステーションに置くという物理的な解決策ではなく、情報の共有や連携という手段を講じるべきだろう。――中間年改定について。反対であることは変わらない。引き続き中止か延期か廃止を求めていく。医薬品供給不足が中間年改定だけの理由で起きているとは思わないが、大きな要因となっている。薬価改定を行うことには反対はしていないが、毎年の改定はやめてほしいと言っている。