歩行に障害のある人に障害福祉サービスの「補装具」として支給される靴型装具について、厚生労働省が制度運用のルールを改め、足の型取りなどを行う要件として事実上、義肢装具士の資格を一律には問わない方針を自治体側に伝えた。法的に問題ないにもかかわらず、製作技術を習得した靴職人らが長年、手掛けてきた製品の支給が認められない例が判明したためだ。
一方、病気やけがなどで治療中の患者向けに保険適用される靴型装具については、3年前の不正請求発覚を機に同省が義肢装具士の関与を厳格に求める姿勢を強めている。自治体側の支給判断を巡ってはなお、混乱も続きそうだ。
適法なのに除外?
脳性まひや病気、けがなどの影響で足にトラブルがある人は、足型を取って専用の中敷きにするなどして痛みを軽減し、歩きやすくする靴型装具を作る人が多い。
オーダーメードで高価なため、障害者の日常生活向けは補装具として市町村から、治療用ならば医療保険の対象となる治療用装具として健康保険組合などから、いずれも公的補助の対象となり、自己負担はおおむね1~3割で済む。
義肢装具士は、医師の指示のもと義手や義足を作る専門職で国家資格の一つ。現行法では、装具を作る際に採寸して型を取り、体に合わせる「採型や適合」を行う際、人体に危害を及ぼす恐れがあり、本来は医師や看護師以外は禁じられる「診療の補助行為」(医行為の一部)に該当するものは、義肢装具士が「医師の指示のもと、業として行う」ことになっている。
ただ、生まれついた障害は治療で治るものでもない。どこまでが医行為に当たるのか、その範囲や判断は難しく「治療までは要しない人や、治療が完了した人に日常生活の補助などのために作るなど医行為に該当しない場合もあり、無資格者でも適法に行われてきた」(今年5月、厚労相の国会答弁)経緯がある。
にもかかわらず同省は2008年、自治体が制度運用の根拠とする「補装具関連Q&A」の中で、採型や適合は「診療の補助行為に該当する」として、義肢装具士が「行うべきである」と示していた。
不正を機に厳格化
17年、市販の靴を治療用装具と偽るなどして保険適用を不正請求した例が全国的に相次いで判明したことから、同省は不正防止に着手。治療用装具については18年、製品の領収書に取り扱った義肢装具士の氏名を記載するよう求め、市町村などの保険者側に通知した。
これを機に、補装具についても08年のQ&Aを根拠に、採型や適合を義肢装具士が手掛けていなければ支給を認めない判断をする自治体も出ていた。
無資格でも医師の指示のもとで治療用装具、補装具を作ってきたNPOなどからは疑問の声が上がり、同省は今年11月にQ&Aを改正。採型や適合が医行為に該当する場合は義肢装具士が「行わなければならない」とした一方、医行為に該当しない場合は「基本的に義肢装具士が適当である」と表現を弱めた。併せて「以前の内容に従って補装具費の不支給決定などをした事例があれば、再度の申請を促すこと」(自立支援振興室)も含めて対応するよう、自治体側に文書で事務連絡した。
無資格者を除外するわけではない姿勢をにじませつつ、あくまで義肢装具士による採型、適合が“望ましい”と従来の方針を維持した形。自治体には困惑も広がっており、福岡県は「補装具費としての支給に実務上何が必要になるか、詳細を厚労省に確認中」(障がい福祉課)としている。
一転して全額自費
同県大牟田市の「足と靴の相談室 ぐーぱ」では、義肢装具士ではないものの同県立大の養成講座で整形靴のノウハウを学んだ技術者が靴型装具の採型、適合を手掛けてきた。昨年から一転、治療用装具や補装具と認められず、数万~十数万円の代金を自費で支払う客も相次いでいる。
脳性まひの息子(43)が「ぐーぱで何足も作ってもらった」という母(62)は「昨年から補装具での申請を諦め、全部自費になった」とこぼす。息子は地面を擦るように歩くため、靴も頻繁に傷む。修理に出す分も含め、日常的に5足を回しながら使う。基本は自費で、制度上可能な範囲で治療用、補装具として作ってもらっていた。「ぐーぱの靴を履くと立ち姿から違い、本人も心地よさそう。また補助が認められれば助かるのですが」-。 (編集委員・三宅大介)
【ワードBOX】補装具
障害のある人が日常生活に必要な移動や動作を確保するため、身体機能などを補完、代替する用具。種類によって国が定める購入費や修理費の基準額から、所得に応じた自己負担額を差し引いた額が補装具費として支給される。申請を受けた市町村が都道府県の身体障害者更生相談所などの判定や意見に基づいて支給決定する。耐用年数が定められており、その期間中は原則、再度の支給はできない。