根本的な治療法が心臓移植しかない拡張型心筋症の小児患者に、培養した自身の幹細胞を移植する「心筋再生医療」に取り組む岡山大病院の王英正教授(循環器内科学)らのグループは、移植した幹細胞が微粒子「細胞外小胞」を分泌し、疾患で傷んだ心筋を修復していることを、ブタによる研究で突き止めた。国内では小児ドナー(臓器提供者)が少なく、移植の機会が限られる中、新たな治療法の開発につながる成果という。 拡張型心筋症は、遺伝や何らかのウイルス感染で発症する場合もあるが、原因の多くは不明。心臓の壁が薄くなり、全身に血液を送るポンプ機能が著しく低下する。王教授らは2017年から、小児患者の心臓組織から心筋のもとになる幹細胞を取り出して培養し、カテーテル(細い管)で心臓に戻す臨床研究に着手。拡張型心筋症にしたブタに同様の再生医療を行い、幹細胞がどのように機能するかについても調べていた。 王教授によると、ブタ10頭のポンプ機能は平均で5%ほどアップ。幹細胞を詳しく分析したところ、分泌された30~100ナノメートル(ナノは10億分の1)の「細胞外小胞」に、抗炎症作用を持つマイクロRNAが含まれていた。傷んだ心筋が細胞外小胞を取り込み、ダメージを修復するとともに、血管の新生を促していたという。 小児患者を対象にした臨床研究では5人に再生医療を実施し、移植から1年後にはポンプ機能が平均で約5%回復。培養した患者の幹細胞にも抗炎症作用を持つマイクロRNAが含まれていた。 王教授は「有用な細胞外小胞を単独で投与すれば、治療効果が高まるのではないか。移植を待つ子どもたちの光となれるよう研究を進めたい」と話している。 幹細胞を移植する再生治療は、できるだけ早期に医師主導治験に移行。5年後の公的保険適用を目指すという。今回の成果は、10日付の米科学誌サイエンス関連の医学誌に掲載された。