福井大学医学部耳鼻咽喉科の研究チームはスギ花粉症の年代別の傾向について、同一対象者を追跡調査したデータなどを基に「20歳前後まで予防できれば、以降の新規発症率は低くなる」と分析した論文を発表した。自然に治るケースは少ないため、発症者が急増する10歳前後より低い年齢層に、重点的な予防策を施す必要性を説いている。実務者として論文をまとめた坂下雅文医師は、2020年度の第27回日本鼻科学会賞を受賞した。追跡調査は、藤枝重治教授の研究室が福井大学医学部附属病院と公立丹南病院の20歳以上の職員を対象に06年と16年、アンケートや採血検査で実施。論文では2回とも調査対象となった334人の結果を比較した。06年時点で発症していた110人のうち、16年時点でも症状があった人は87%に上り、症状がなくなる「自然寛解」になった人は13%にとどまった。抗体はあるが未発症の「感作」だった人で、10年後に発症していた人は23・5%。抗体がなかった人で、10年後に発症か感作になっていたのは13%だった。16年の発症グループの人数は117人となり「成人以降の新規発症の増加傾向は鈍い」とした。一方、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会による19年の全国疫学調査(事務局・福井大学、約1万9千人対象)によると、スギ花粉症の年代別有病率は0~4歳で3・8%だが、5~9歳で30・1%、10~19歳では49・5%に急増。20~50代は40%台後半で横ばいだった。これらを踏まえ坂下医師は「スギ花粉症の発症は10歳前後から急増するが、20歳以降は新たに発症する割合はかなり低くなる」と分析。ただし一度発症すると治りにくいため、「20歳未満の重点的な予防が重要」と結論づけた。10歳前後から発症しやすくなるのは、登下校や屋外活動で花粉を吸い込む機会が増えるためとみられるという。坂下医師は具体策として▽就学前の健診に抗体検査(採血)を導入し、発症や感作の有無を確認して予防策や治療を指導する▽発症予防のために学校保健でマスク着用を習慣付ける-と提案。「将来的に患者を減らせれば、医療費削減にもつながる」と話している。