「光への反応」半年後に評価 iPS視細胞世界初移植 60代女性


神戸市立神戸アイセンター病院(神戸市中央区)は16日、他人の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から視細胞の基となる「神経網膜シート」を作り、難病「網膜色素変性症」の患者に移植する手術を実施したと正式発表した。中枢神経の生理的回路の再建を目指す臨床研究は世界初。患者は合併症も出ず、手術は成功した。近く退院する見込みという。今後約1年をかけて安全性を確認し、シートが定着するとみられる半年後から、光の刺激に視神経を反応させることができるかなど機能面も評価していく。医学界で長年「再生しない」と信じられてきた中枢神経の再建を目指すもので、網膜色素変性症の患者の治療法確立につながる可能性がある。長年の動物実験で確かめられた効果が人間でも確認できるかが鍵だ。同疾患は、遺伝子変異が原因で、網膜の光を感じる視細胞が周辺から死んで視野が狭まり、最後は失明に至るとされ、国内患者は推定約4万人とされる。同病院によると、手術は10月上旬、関西に住む同疾患の60代女性に実施した。女性は発症後10年以上がたち、明暗が分かる程度だという。臨床研究では安全性を確認するほか、シートを移植することで、直接的に網膜の神経回路が再建されて光を感じるようになるかを検証する。2020年度中にさらにもう1人の同疾患患者に同様の移植手術を行う予定。手術では、同病院の栗本康夫院長らが、健康な人のiPS細胞から作った視細胞になる直前の「前駆細胞」を使ったシート(直径1ミリ、厚さ約0・2ミリ)を右目網膜の下に3枚挿入した。手術は執刀する部位などを拡大する顕微鏡をのぞき込みながら行い、約2時間で終了した。劇的な視力回復は見込んでいないが、研究責任者の平見恭彦・同病院副院長は「移植した細胞が光を感じられるようになるだけでかなりの進歩。それが確認できれば、そこから技術を発展させて視力が改善したり、視野が広がったりという治療につながる可能性はある」とした。(霍見真一郎)

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