岡山赤十字病院(岡山市北区青江)が、各診療科を代表する専門医を、玉野分院(玉野市築港)に次々投入している。分院ではこの5年で糖尿病内科や脳卒中科など計7科の専門外来を新設。地域のかかりつけ医と連携して高度急性期の同病院が取り組む最新の医療を、玉野にいながら受けられるようにする試みだ。 9月8日、玉野分院に新設された肝臓内科の専門外来がスタートした。 「黄疸(おうだん)も出ていませんし、血糖値も良いですね」。分院で月2回、診察することになった同科の小橋春彦部長が穏やかな口調で告げると、肝硬変の男性患者(73)はほっとした表情を見せた。 日本肝臓学会によると、肝臓専門医が手薄な玉野市。朝から診察を希望する患者が切れ目なく続いた。「専門医の診察が岡山市まで行かなくても受けられる」と男性は喜ぶ。本院で手術も 1970年代半ばに約8万人を数えた玉野市の人口は減少が続いており、2018年に6万人を割り込んだ。 市は20年以降、医療需要は減少すると予測するが、高齢化率は4割近くまで上昇。「医療を必要としている人は多いのではないか」(辻尚志・岡山赤十字病院長)と、皮膚科や糖尿病内科、整形外科といった専門外来を16年以降、拡充してきた。 顕著に患者が増えている専門外来の一つが循環器内科だ。「心不全パンデミック」と呼ばれるほど、高齢の心不全患者が急増する中、同科では患者の約8割が心不全またはその予備群。19年度の延べ患者数は723人と前年度の3倍まで増えている。 加齢などで車の運転ができなくなる高齢者が増える中、専門的な診療を受けるため、岡山市の大規模病院に出向くのが難しい患者も少なくない。診断力に優れたベテラン専門医の派遣だけでなく、分院では難しい高度な医療が必要と判断すれば、簡単な手続きで本院で検査や手術を受けられる仕組みも構築した。早期発見へ成果 玉野市では16年以降、民間病院の閉院が続き、10病院から7病院まで減少。さらに市立市民病院も昨秋、厚生労働省から再編・統合が必要と判断され、地元の民間病院との統合が進められている。 地域医療体制の維持が懸念される中、分院は地元のかかりつけ医と連携を強化。がんや心疾患の早期発見、治療につなげるといった成果を上げている。横山祐二分院長は「診断に迷う場合など気軽に分院に紹介していただけたら」と呼び掛ける。 自治医科大地域医療学センターの小谷和彦教授は「かかりつけ医と専門医が協力する地域医療の在り方は以前からの課題。岡山赤十字病院の試みは一つの形を提示した点で意義がある」と指摘。「地域に見合った医療機能は地域ごとに異なり、玉野の街の医療をどうするかとの議論を活発化させてほしい」と話している。