コロナ禍が認知症に悪影響 外出自粛・面会制限で機能低下


高知県内の専門家「運動や会話を」 外出自粛や施設の面会制限など、新型コロナウイルスによる制約が認知症の高齢者らに影響を与えている。高知県内の専門家は、人との交流や運動の機会が減ると症状が悪化し、健康な人でも発症リスクが高まると指摘する。 9月上旬、高知市内の通所介護(デイサービス)施設。約30人の高齢者がボール遊びを楽しんだ後、静かな午後のひとときを過ごしていた。7割ほどの人に認知症があるという。 男性職員(42)は「デイがないと生活が成り立たず、元日以外は毎日来てる人もいます」と話す。マスクを嫌がって着けられない人も多いが、リハビリや介助、レクリエーションの際は職員が寄り添う。「話を聞くときは肩を触りながら。接触しないケアはとても無理です」 県内ではこれまでに知的障害者支援施設でクラスター(感染者集団)が発生。高齢者施設では起きていないものの、「感染防止」と「丁寧なケア」の間で試行錯誤が続く。■異変 コロナ対策を徹底する中で、施設の職員らはある異変に気付くようになった。 「声を掛けても反応が鈍くなったり、ふらつきも出たり。以前は物忘れだけでしたが…」 高知市内の別のデイサービス施設で管理者を務める40代の男性が、軽度の認知症がある利用者の変化を心配そうに話す。 この施設では3月以降、感染予防のために1人当たり週3回だった通所を2回に減らすなどした。利用者の症状が悪化しないよう気を配ったが、7月ごろになると足腰が弱り、活気がなくなるなどの影響が数人に見られたという。 「昼間から家で横になる時間が長くなったことが原因かもしれない」。リハビリの回数を確保するため、利用者に別施設に通ってもらうなどの対策を取っている。 南国市内の老人ホームの男性職員(33)は、3月からの面会制限で孫に会えなくなった入所者の女性に違和感を覚えた。 1カ月ほどすると、理由もなく強い口調で職員に不満をぶつけたり、「なんでこんなつらい思いをしなきゃいけないの」と涙を流したりした。職員は「認知機能の低下が始まったのかもしれないと思った」。6月に面会制限が緩和され、家族に会えるようになると女性の状態は落ち着いたという。■発見できない? 外出自粛や面会制限などが認知症の人に与える影響は、今年2月以降のコロナ拡大下で行われた全国調査からもうかがえる。 日本老年医学会と広島大が全国の945施設と介護支援専門員(ケアマネジャー)751人を対象に行った調査では、約4割が認知機能や身体活動量の低下などの「影響が生じた」と回答した。 日本認知症学会が専門医357人に行った調査でも、専門医の4割が患者の症状が悪化したと回答。「うつ症状が出る人が増加した」などの声があったという。 県介護支援専門員連絡協議会長の広内一樹さん(44)によると、在宅高齢者の中には感染の不安から介護サービスの利用を何カ月も控えている人がおり、「電話連絡だけでは本人の顔色や表情、生活空間が見えない。状態の悪化を早期に発見できないケースが出てくるかもしれない」としている。
■心は密に では、コロナ下の認知症対策はどうあるべきか。 高知大学名誉教授の森惟明(これあき)さん(86)=脳神経外科医=は、自宅や施設でできる認知症の予防法として、(1)運動(2)知的活動(3)会話・コミュニケーションの3点を挙げる。 運動は、散歩やスクワットのほか、家の中を歩いて階段を上り下りしたり、買い物に行ったりするだけでも有効といい、「高齢者には1日1万歩とかは難しいので、目標は3千歩。無理せず、できる範囲で継続を」。 知的活動は、頭を使って指を動かす脳トレやパズルのほか、短歌や俳句を作ったり、日記を書いたりすることも含まれる。 コロナ下で難しいのがコミュニケーション。家族や友人と会うのが難しい場合は、電話やオンラインで頻繁に連絡を取るほか、近しい人が送った手紙、昔の写真を見ることも有効だという。 感染予防で大切なのはフィジカルディスタンス(身体的距離)だが、認知症予防では「体は離れても心は密につながりましょう」。森さんはそう呼び掛けている。(山本仁)

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