京都大は、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞を、パーキンソン病の患者の脳に移植した治験で有効性と安全性を確認できたと発表した。iPS細胞を利用して損傷した組織や臓器を補完する「再生医療」の実用化に、大きな一歩を踏み出す成果といえよう。難病に苦しむ患者の治療につなげてもらいたい。パーキンソン病は神経伝達物質のドーパミンを出す神経細胞が失われ、運動機能の低下などが進行する国の指定難病だ。国内患者は25万8千人に上る。高橋淳京大教授らのチームが7人の患者に移植したところ、歩行困難が手足の震え程度に改善するといった例が4~5人に確認できた。この神経細胞の製造を担当した製薬会社は、保険診療で使う医薬品として製造・販売する承認を、本年度内に厚生労働省へ申請する予定という。iPS細胞を使った再生医療では、大阪大のチームが開発した心筋シートについても、重症心不全の患者に移植する治験で有効性と安全性が認められたとして、医薬品としての承認申請が今月に行われた。糖尿病、脊髄損傷、加齢黄斑変性などでも臨床研究が進んでいる。これらの病気は、現在のところ根本的な治療法がない。再生医療の手法に期待が寄せられる中、切り札として登場したのがiPS細胞である。京大の山中伸弥教授が2006年にマウスで、翌年にヒトでの作製を発表し、ノーベル賞を受けた。約20年を経て、実用化への研究は世界各国で進む。京大や阪大のチームが、保険診療を見据えて厳格な基準により行われる治験で、有効性を示せた意義は大きい。iPS細胞から作製した細胞や組織はがん化の懸念があったが、今の時点で、そうした例は報告されていない。今後、iPS細胞を使った再生医療を一般的な治療として多くの患者に届けるためには、さらなる有効性の向上と、費用の低減が欠かせない。国の試算によると、現状ではiPS細胞由来の細胞や組織を移植する治療には約4千万円がかかる。国民全体で費用を負担する保険診療で持続可能な医療にするには、どのような患者に、どの程度の量の細胞を移植すれば効果を高められるのか、詳細な検討が欠かせない。血液や皮膚からiPS細胞を作製した上で、移植に必要な神経細胞や心筋細胞などに変化させる工程を全て自動化することができれば、低価格化が進むとされる。そうした技術開発にも力を入れたい。iPS細胞の実用化は、日本が世界をリードしている。国も10年間に1千億円超の予算を投じてきたが、病態を再現して創薬に生かす研究も含め、さらに積極的な支援を続けるべきだ。