皮膚がんの脳転移 新治療法を開発 岡山大病院講師ら 新薬開発に期待


岡山大学病院低侵襲治療センターの黒田新士講師と消化管外科の金谷信彦医師らの研究グループは28日、治療が難しい皮膚のがん「悪性黒色腫」の脳転移に対し、高い治療効果が見込めるウイルス製剤と免疫治療薬(抗PD1抗体)を同時に送り込む新たな治療法を開発したと発表した。マウスを使った実験では生存期間の延長を確認。現行の医療では治療困難な、遠隔転移を伴う進行がんに対するウイルス・免疫治療の有効性を示す成果で、新薬開発につながると期待されている。 がん細胞だけを選択的に破壊するウイルス製剤は、腫瘍に対して局所投与しなければ効果は乏しく、薬剤運搬が課題だった。ウイルス製剤は免疫反応を高め、抗PD1抗体と組み合わせると治療効果が高まることは、黒田講師と金谷医師らのこれまでの研究で確認されている。 薬剤運搬には腫瘍に集積する性質がある間葉系幹細胞を活用した。ゲノム編集技術を使い、ウイルス製剤を搭載した幹細胞と、抗PD1抗体を運ぶとともに免疫機能を活性化させる因子(サイトカイン)を産生する免疫賦活化幹細胞の“双子の幹細胞”を作製した。 悪性黒色腫の脳転移の中でも特に悪性度の高い軟膜播種(はしゅ)を発症させたマウスの脊髄(髄腔<ずいくう>内)に、双子の幹細胞を投与したところ、発症マウス6匹の生存期間は中央値で45・5日となり、未治療マウスの14日に比べ3・25倍延びた。特殊な技術を使ってヒトの免疫細胞が機能するヒト化マウスも作って同様の実験をしたところ、生存期間は約2倍に延びたという。 金谷医師によると、双子の幹細胞は髄腔を流れる髄液を通じて脳内に散らばったがん細胞にまで到達した。ウイルス製剤はがん細胞に入り込んで内側から攻撃。抗PD1抗体とサイトカインは免疫細胞を呼び寄せて活性化させ、両面攻撃が成立したことで腫瘍の縮小効果が高まったという。 研究グループによると、今回開発した治療法は、脳転移以外の遠隔転移に対しても応用可能。黒田講師は「今後は胃がんなどで起きる腹膜播種などをターゲットに、岡山大学が独自に開発したウイルス製剤『テロメライシン』を使った治療法の確立を目指したい」と話している。 金谷医師が3月まで留学していた米国ハーバード大学医学大学院との共同研究。研究成果は5月、米医学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」に掲載された。

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