慶応大の研究チームは、大腸がんの元になる「がん幹細胞」が、化学療法の後も生き残り、再増殖する仕組みを明らかにした。日本人が罹患(りかん)するがんの中で、最も患者数の多い大腸がんの再発予防や根治療法開発につながると期待される。論文は8日、英科学誌ネイチャーに掲載された。増殖が早いがん細胞は、常に細胞分裂しているため、抗がん剤などの化学療法は分裂中の細胞を標的にする。一方、がん組織の中には、増殖の遅く抗がん剤が効きにくいがん幹細胞が含まれており、治療後に再発する原因となっていた。慶応大の佐藤俊朗教授らは、体内の大腸がんとほぼ同じ状態のまま、体外でがん細胞を増殖させる技術を開発。ヒトの大腸がん組織をマウスの背中に移植し、がん幹細胞の挙動をリアルタイムに観察した。その結果、休眠中のがん幹細胞はコラーゲンの一種を作り出して腸の組織に固着。強くしがみつくことで細胞を休眠させ、化学療法に耐えることが分かった。さらに、このコラーゲンがなくなるとYAPというたんぱく質が再増殖のスイッチを入れることも判明。大腸がん組織を移植したマウスに抗がん剤を投与した後、YAPの働きを弱める薬剤を投与すると、がん細胞の再増殖が抑制された。佐藤教授は「がん細胞を完全にゼロにするのは不可能。コントロールできた状態で寝ていてもらう方がいい。今後は臨床応用を視野に研究を進めていきたい」と話した。