新型コロナウイルスの感染防止のために外出自粛が広がる中、テークアウトや宅配に乗り出す飲食店が増えている。家でこもる人らの人気を集める一方、経験のない業者も少なくなく、食中毒のリスクが指摘されている。担当する保健所は新型コロナウイルス対策に忙殺されていて十分な指導が行えない恐れがあり、関係者は警戒を強めている。【近藤幸子】金沢市のフランス料理店や和食店などは4月24日から毎日、市郊外の休業中のパチンコ店駐車場を使ってドライブスルー方式で弁当を共同販売をしている。参加店は30店を超え、週末には長蛇の列ができる。「早めにお召し上がりください」。今月1日、会場では係員が弁当を車中の客に渡しながら、呼びかける姿があった。参加店は弁当は直前まで冷やし、製造日表示シールの二重チェックを行うなど対策を徹底するルールだ。通常テークアウトでの営業は行っていないビストロ「シャレ」ではローストビーフ丼に酢飯を使う。オーナーの隅谷啓さん(53)は、「屋外のため温度管理に通常よりも気をつけている」と話す。一方で十分な対策をしている店ばかりではない。金沢市郊外の居酒屋は県による休業要請が出た4月下旬から店頭で弁当を売り始めた。「夜に酒を提供できなくなった売り上げの減少分をなんとかして埋めたい」(40代の店長)。店で提供するカレーや肉料理を弁当にするが、一人で切り盛りする忙しさから前夜に作ったカレーをそのまま出したことも。「危ないかもしれないが、自分も食べているので」と話す。一般的に気温や湿度が上がる梅雨の時期や夏場は食中毒が増える傾向が強い。金沢市保健所では4月下旬に、市食品衛生協会や全日本司厨士協会石川県本部に▽食材を十分加熱する▽健康な人がつくる――などの注意を促す通知を出した。ただ思うに任せない事情もある。全国13の特定警戒都道府県の一つになった石川県では新型コロナウイルスのPCR検査(遺伝子検査)が5月1日までに1977件と拡大し、保健所の食品衛生担当職員も検体を運ぶ業務などに追われる。毎年夏に向けて行うはずの店舗での訪問指導も今年はできていないという。食中毒が起きると、医療機関や保健所にかかる負担はさらに大きくなる。保健所の担当者は、飲食店での食品の衛生管理や、従業員教育の徹底が必要とした上で、「食べる側も早めに食べきってほしい」と警鐘を鳴らす。食品衛生に詳しい北陸学院大短大部の西正人講師は、夏場の細菌性食中毒で注意すべき食品として、生野菜を使ったサラダや鶏肉、カレーなどを挙げた。調理器具の衛生管理を徹底した上で、肉料理では十分に加熱し、冷めてから容器詰めする必要があるほか、液状の食品は冷めてきた際に菌が増殖しやすいため、再加熱が必要だという。弁当はなるべく低温保存するよう勧めている。