難病患者移送のタクシー事前契約、水害にも対象拡大へ


停電を伴う大規模な地震発生時、在宅で人工呼吸器を使っている患者をタクシーが医療機関まで送る仕組みが山形県内にはある。3カ月前の豪雨災害でも患者の移送が想定されるケースがあった。ただ水害時の移送を想定していなかったことなど新たな課題が浮かび上がり、関係者は改善を検討し始めた。この仕組みは「KINT(キント)システム」。県や患者団体、医療機関などの協議会、タクシーの業界団体が2014年に協定を結び、全国初の取り組みとして始まった。移送の対象は、在宅で人工呼吸器などをつける難病患者。停電時、人工呼吸器はバッテリーで稼働するが、長時間は使えないので電源の確保が必要になる。このため、同システムでは患者や家族の登録時に、自家発電設備のある最寄りの病院を移送先に選ぶ。その上で、患者や家族は移送を担当するタクシー会社と契約する流れだ。大きな地震発生時は電話が不通になったり、救急車がけが人などの対応に追われたりすることが予想される。同システムは救急車が利用できない場合でも、患者を医療機関へ移送するセーフティーネットとして構築された。地震などの発生時には、患者や家族がタクシー会社に迎車を依頼する。停電を伴う震度5弱以上の地震や長期停電が予想される場合は、連絡がなくてもタクシー会社が患者宅に車両を配車し、患者を病院に送る。タクシー会社では、運転手が講習を受けるなど、災害時の出動に備えているという。7月末の豪雨の際、同システムに登録している患者が救急車で搬送されたケースがあった。村山地方在住の難病患者で、家族や担当のケアマネジャーは自宅近くを流れる川の氾濫(はんらん)を懸念。「大水が家に入ってからでは遅い」と患者を入院させることにした。だが、契約ではタクシー会社が連絡なく車両を派遣するのは、大規模地震や停電の場合に限られる。このため、タクシー会社は配車をしなかったが、「要請があれば出動できるよう準備はしていた」という。移送先となっていた病院にはケアマネジャーが電話で相談。だが、患者がこの病院に入院したことがなかったため、病院側は「十分なケアができず、万が一の時に対応できない」と判断し、患者が入院したことのある国立病院機構山形病院(山形市)に連絡。患者は山形病院に救急車で搬送され、入院したという。豪雨後、保健所や県の職員、医療機関の関係者らが集まり、今回のケースを共有。「水害は増える傾向にあり、対応を考えなくてはならない」との認識で一致し、同システムの見直しを検討していくことにした。また、患者の家族には移送先の病院と事前に相談しておくことを勧めたという。今回のケースについて、システム発足に携わった加藤丈夫・山形市保健所長は「(移送先となっていた)病院は受け入れられなかったが山形病院に連絡した。タクシー会社も契約外の事態だったので致し方ない」と振り返る。その上で「停電を伴う地震だけではなく水害や台風被害も含めて患者の命を守るためにシステムの見直しを進めていきたい」と話した。(江川慎太郎)〈KINT(キント)システム〉 参加するのは、山形県、患者団体「県難病等団体連絡協議会」、医療機関などで構成する「県難病医療等連絡協議会」、業界団体の県ハイヤー協会、県ハイヤー・タクシー協会の5者。「KINT」は県(K)、医療(I)、難病患者(N)、タクシー(T)の頭文字。今年3月現在で、全身の筋肉が衰える難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)などの患者17人が登録。契約するタクシー会社は11社。移送時、患者側は自宅から医療機関までの運賃のみを負担する。

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