「かかりつけ医」か「フリーアクセス」か…35年ぶりの改革の着地点 日本医師会側はどう巻き返した?


コロナ禍を機に議論が本格化した日本の「かかりつけ医」制度。大きなきっかけは2022年5月、有識者らによる政府の「全世代型社会保障構築会議」がまとめた中間整理だった。「コロナ禍により、かかりつけ医機能などの地域医療の機能が作動せず、総合病院に大きな負荷がかかるなどの課題に直面した」として、かかりつけ医の制度整備を求める内容だった。同じころ、やはり有識者による財務省の財政制度等審議会がまとめた建議も「わが国の医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった可能性が高い」と指摘。「必要な時に必要な医療にアクセスする」ため、かかりつけ医機能を法制化して明確にし、機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定する制度や、国民がかかりつけ医を決めて登録する制度を検討すべきだと建議した。欧米の家庭医と違って、日本ではかかりつけ医は制度化されておらず、「かかりつけ医」だと思っていた診療所やクリニックから診察を断られる発熱患者が相次ぎ、発熱外来を開設した医療機関に患者が集中する問題が起きたからだ。米国で家庭医を学び、欧米の家庭医制度に詳しい医師の武藤正樹(74)は「1980年代にも旧厚生省が欧米の家庭医の導入を目指したが、日本医師会(日医)に『フリーアクセスが損なわれる』などと真っ向から反対され、制度化に至らなかった。以来、日本は35年も遅れた」と語る。財務省や医療保険財政の悪化に苦しむ健康保険組合連合会(健保連)が提言する、かかりつけ医の「認定制」と「登録制」が改革議論の焦点になった。かかりつけ医として認定された医師に国民が登録する制度なら、問題解消につながるというものだが、日本医師連盟(日医連)はすぐさま反対運動を展開する。「そもそもかかりつけ医へのフリーアクセスを制限したのは政府」「入院困難事例や受診困難事例は残念ですが、これをかかりつけ医をはじめとする医療側の責任とするのは大きな誤りであると考えております」財政審建議から5日後の参議院予算委員会。日医連組織内議員の自見英子は冒頭の中間整理を批判した。当初は検査や治療に保健所の許可が必要だったが、その後、保健所の業務を地域の医師会や医療機関に委託することが可能となった。それでも3年目の昨年夏の第7波時点で、発熱外来は歯科を除く全医療施設の35%しかなかった。さらに日医連はロビー活動を強化していく。11月には日医会長で日医連委員長の松本吉郎が「かかりつけ医は国民が選ぶのが基本。義務づけには反対だ」とあらためて日医として制度化に反対を表明した。翌12月下旬、厚生労働省の社会保障審議会はかかりつけ医の役割を法制化する厚労省案を了承。法律は今年5月に成立した。かかりつけ医の機能を「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置や医療を行う機能」と定義。休日・夜間診療や在宅医療など、医療機関が報告した機能を都道府県が国民に情報提供するなどの内容だが、認定制や登録制の導入は見送られた。自見は法成立前の今年2月の「日医連ニュース」への寄稿で、各地の医政活動を評価する一文を寄せた。「都道府県医師連盟の先生方が地元選出の国会議員の先生方に働き掛けてくださいました。心から感謝申し上げます」日医連の巻き返しで、35年ぶりの改革はかなり押し戻された。健保連副会長の佐野雅宏は言う。「コロナ禍で医療難民が問題化し、医療に対する国民の不安は高まった。制度整備の第一歩と評価するが、これで終わりではない」◇(全6回)新型コロナウイルス禍で、病院にかかれない「医療難民」が街にあふれ、ぶりが露呈した日本の医療提供体制。国民皆保険制度も存続の危機にひんする。長年改革が進まないのはなぜか。年末の診療報酬改定に向け、議論が活発化する中、票とカネが絡み合う改定の舞台裏を検証し、改革を阻んでいる要因を探った。(文中敬称略=杉谷剛、中沢誠、奥村圭吾が担当しました)医療に関する情報やご意見を募集します。メールはsugitn.g@chunichi.co.jp、ファクスは03(3593)8464、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞社会部「医療の値段」へ。

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