岸田政権、参院選公約にもない負担増を続々検討 高齢者標的の医療・介護制度見直しや防衛増税


岸田政権は医療や介護の制度見直しで、高齢者の負担増につながる議論を進めている。全世代の給付を充実させるため、高齢者にも応分の負担をしてもらう「全世代型社会保障」を進めるのが狙い。だが、自民、公明の与党は7月の参院選で負担増の説明を避け、国民の理解を得ようとする姿勢はみえない。さらに、高齢者の急激な負担増に対する懸念も出ている。 (井上峻輔)厚生労働省は9日の社会保障審議会で、75歳以上の後期高齢者医療制度で、2024年度に加入者1人当たり保険料を平均で年5400円弱引き上げる試算を示した。年金収入が153万円を超える人が対象で、収入が多いほど引き上げ幅は大きくなる。後期高齢者の医療費全体の約4割を担う現役世代の負担上昇を抑制することに加え、少子化対策として「出産育児一時金」を大幅に増やす財源にも当てることが目的。厚労省は年内にも結論を出す方針だ。介護保険制度を巡っても、65歳以上の中高所得者の保険料や自己負担の引き上げが厚労省の審議会で検討されている。厚労省の審議会では委員から異論も出ている。日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦氏は、10月に一定の所得がある後期高齢者の医療費窓口負担が1割から2割に引き上げられたことなどを挙げ、「ここ数年で高齢者の負担が一気に増えようとしている」と懸念を示す。「高齢社会をよくする女性の会」の袖井孝子副理事長は「現役世代にも年を取った時の不安感を与えないか」と政府の方針に疑問を投げかけた。政府の制度改正は、岸田文雄首相が設置した有識者会議「全世代型社会保障構築会議」の方針に沿ったものだ。年内の報告書の取りまとめに向けた論点では、子育て支援の充実策が目立つ一方、医療・介護分野では厚労省で議論されている高齢者の負担増の方策が並ぶ。首相は「全ての世代で医療・介護費を公平に支え合う仕組みを強化する」と説明している。問題は、政権を担う自民、公明の与党が高齢者の負担増を選挙で十分に説明しなかったことだ。参院選公約で両党は「全ての世代が安心できる持続可能な全世代型社会保障の構築」「皆で支え合う全世代型社会保障の構築」などとうたったが、内容の具体的な説明はなく、高齢者の負担増には触れなかった。防衛費大幅増を巡っても参院選で与党は公約していないのに、首相は1兆円強の増税を表明した。立教大の芝田英昭教授(社会保障論)は、社会保障に関する与党の公約について「全世代の給付を上げるようにイメージさせながら、実際は負担を増やそうとしていて巧妙だ」と指摘。「政治家は負担増を選挙の時には言わず、国民は選挙が終わってから『こんなことだったのか』と気付くことになってしまう」と批判した。【関連記事】

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