新型コロナワクチンの知財権放棄 米政府が一転容認の方針


米通商代表部(USTR)のタイ代表は5日、声明を発表し、製薬会社の特許など、新型コロナウイルスワクチンに関する知的財産権の一時放棄を容認する方針を明らかにした。知財権が放棄されれば途上国などでのワクチン生産が容易になる利点があるが、米政府は企業保護などの観点から従来は慎重だった。タイ氏は「地球規模の公衆衛生の危機であり、異例のパンデミック(世界的大流行)時には異例の手続きが求められる」として、世界貿易機関(WTO)での協議を進める考えを示した。米ブルームバーグ通信によると、欧州連合(EU)や英国、スイスなども知財権放棄には慎重だった。タイ氏は「WTOでの協議は全会一致が原則であり、複雑な問題であるため、手続きには時間がかかる」と述べており、米国の方向転換を受けた各国の対応が注目される。声明では「米政府は知財権保護の正当性を強く支持しているが、パンデミックを終わらせるために、新型コロナワクチンの知財権放棄を支持する」と説明。「安全で効果的なワクチンを多くの人に早く届けるという目標がある。米国で必要な量は確保しており、増産と分配のための努力を加速する」と述べた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は自身のツイッターに「新型コロナとの闘いで画期的な瞬間だ」と投稿した。新型コロナウイルスワクチンは米英中露印など一部の国しか生産に成功していないが、知財権が放棄されれば、途上国などでワクチンの生産が容易になる利点がある。一方、製薬会社などが商業上の利益を失うほか、知財権放棄の前例ができることで今後の研究開発への悪影響も懸念される。バイデン政権は1月の発足後、製薬会社などと協議を重ねていた。ロイター通信によると、インドや南アフリカが2020年10月、WTOで新型コロナワクチンの知財権放棄を提案し、100カ国程度が賛成していた。【ワシントン秋山信一】

関連記事

ページ上部へ戻る