奈良の民間病院「病床捻出したい」「もっと予防策を」


新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、奈良県は21日、改正感染症法に基づき、県内全75病院に病床確保の要請をした結果、民間を含む11病院で33床が新たに確保できる見通しが立ったと発表した。荒井正吾知事は同日の会見で「早々に対応してもらい感謝している。要請の効果があったと思う」と述べた。県によると、15日の要請を受けて、すでに患者を受け入れている6つの公立・公的病院と2つの民間病院が計24床を増床、新たに民間の3病院が計9床を提供する見通し。33床のうち、10床はすでに運用済みで、23床は6月ごろまでに順次運用を開始する。今回の要請で、県は民間を含む19病院で計409床を確保できた。荒井知事は「民間病院にも、もう少し(病床確保に)参加してもらえないかという思いがあった」と述べた。改正法では正当な理由なく要請に応じない場合、強制力のある「勧告」ができ、それでも従わない場合は病院名を公表できる。「なぜ(病床確保が)できないのか実態を把握したかった」。病床確保要請の狙いについて荒井知事はこう語る。県内の医療機関からは「要請はもっともだ」と理解を示す一方、強制力も伴う要請だけに、「頭ごなしだ」との不満も聞かれる。「コロナは災害。なんとか病床を捻出したい」。大和高田市の土庫(どんご)病院(199床)の山西行造(こうぞう)院長はこう話す。医師約40人、看護師約180人を抱える同病院は、要請を受け、4病棟のうち1病棟を新型コロナの専用病棟とし、軽症患者用の病床を5床程度つくる方針だ。同病院ではこれまで、新型コロナの感染が疑われる「疑似症患者」用のベッドを6床確保し、受け入れてきた。患者は陽性判明後、半日から1日で適切な治療ができる医療機関へ転院していたが、感染が拡大した4月以降は転院できず、数日間入院する患者が増えたという。山西院長は「県内に400人を超える自宅待機者がおり、家庭内感染も防げていない状況。医療崩壊の一歩手前で、われわれもなんとか対応しないともたないと思った」と話す。ただ、「総力戦」(山西院長)となったことで通常医療への影響も甚大で、「地域医療に貢献する病院として役割が果たせなくなる可能性もあり、非常につらい。さらに感染者が増えれば、医療崩壊は免れない。緊急事態宣言など思い切った措置が必要だ」と話す。一方、ある病院の幹部は、「設備や医療資源からみて受け入れは難しい。県は医療従事者ばかりに負担を強いるのではなく、もっとメッセージを強く発し、感染防止対策をとってほしい」と要請には応じられないと話す。「法律に基づいた要請は唐突で、頭ごなしな印象だ」と苦言を呈する別の病院幹部もいる。県内全ての病院が加入する県病院協会の青山信房会長は「予測を超えるスピードで感染者が増えており、要請はもっともだ」とした上で、病院の施設改修▽医療スタッフ不足▽病院経営の問題-の3点が解決されなければ、病床確保は困難と訴える。「県の民間病院はぎりぎりで余力がない。ホテルなどの療養施設を増やし、中等症と重症のみを病院で診る態勢でしのぐのが現実的だ」と指摘する。

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