人の遺伝情報が含まれる受精卵の核を第三者の受精卵に移植する「核移植」について、政府が、難病「ミトコンドリア病」の基礎研究に限って解禁する。新年度に政府の総合科学技術・イノベーション会議(議長・菅首相)を開いて正式に決定する。核移植した受精卵を母胎に戻すのは禁じる。ミトコンドリア病は遺伝する場合があるが、将来的には遺伝を防げるようになることが期待される。受精卵の核移植と、核移植した受精卵を母胎に戻すことは、同じ遺伝情報を持つ子供を生み出せる可能性があるため、現在はクローン技術規制法に基づく文部科学省の指針で禁止されている。ミトコンドリア病は、ミトコンドリアに異常が生じ、その働きが低下して発症する。ミトコンドリアの遺伝情報は母親から受け継ぐが、患者らの受精卵の核と、あらかじめ核を取り除いた健康な第三者の受精卵を組み合わせれば、異常なミトコンドリアのない受精卵になる可能性がある。核移植がミトコンドリア病の遺伝予防に役立つと考えられるため、同会議が2019年、ミトコンドリア病の予防に向けた核移植の基礎研究を「容認することが適当」との報告書をまとめた。これを受け、文科省が審議会で検討のうえ指針の改定案を作成。今年4月以降に開かれる同会議が改定案を承認すれば、基礎研究が解禁される。文科省の審議会委員を務め、ミトコンドリア病に詳しい国立精神・神経医療研究センターの後藤雄一・メディカル・ゲノムセンター長は「将来、治療法として確立されれば、子を持ちたい患者と家族にとって一つの選択肢となり、大きな希望になる。ミトコンドリア病は不明な部分が多く、まず基礎研究をしっかり進めることが大切だ」と話す。◆ミトコンドリア病=細胞内でエネルギーを生み出す小器官ミトコンドリアの異常によって発症する病気。筋力低下やけいれん、心疾患など様々な症状があり、根本的な治療法はない。国の指定難病で、医療費助成の対象となっている国内の患者数は2018年度で約1400人。