高齢化社会の進展などで、障害や認知症を抱える患者が増えるなか、専門知識と経験を生かし優しい治療を目指す「障害者歯科」が注目されている。全国に約10万人いる歯科医師のうち「日本障害者歯科学会」(事務局・東京)の試験や実習を受けるなどして、障害者歯科の認定医の資格を得ているのは1235人。九州・沖縄・山口では173人の認定医が活躍している。【田後真里】障害や病気を抱えた患者は、同じ姿勢を一定時間保つのが難しいなどの理由で、歯科に行きづらいことがある。「障害者歯科」では患者の特性が十分に把握され、さまざまな配慮がある。専門機関と連携し、障害が重い場合は全身麻酔を使って集中的に治療するケースもある。認定医の数を人口10万人当たりで見ると、沖縄が1.93人で全国トップ。長崎が2位(1.88人)、福岡5位(1.49人)と、トップ10に3県が入っている。沖縄の認定医は28人。県内の障害者歯科をけん引しているのは県歯科医師会が運営する県口腔保健医療センター(南風原町)だ。水野和子診療部長(56)は「(沖縄県には)歯学部がなく、地理的にも応援を頼みにくい。開業医らが早くから『自分たちで何とかしなければ』と熱心に学び、高い意識を持っていた」と説明する。一方、認定医が25人いる長崎は、長崎大学歯学部と県歯科医師会が長年、密接に連携。歯学部では初年度から障害者歯科を扱い、大学病院が研さんの場になっている。また、県歯科医師会は離島や過疎地に歯科医師と「巡回歯科診療バス」を派遣している。沖縄、長崎とも県歯科医師会が障害者を診ることができ、必要があれば専門性の高い医療につなぐことのできる「協力医」を育成。沖縄約130人、長崎約300人が活動している。福岡には76人の認定医がいる。九州で最も長い歴史のある障害者歯科の一つ、「おがた小児歯科医院」(福岡市博多区)では言語訓練などにも取り組む。石倉行男院長(53)は「障害者歯科では継続的に受診してもらうことが大切で、認定医がさらに一般開業医に広がっていくことが理想的だ」と期待する。2016年の開院以来、多くの障害者を受け入れてきた福岡県春日市のリチャード歯科を訪ねた。ミーティングで、認定医の木村敬次リチャードさん(51)が「歯科医と歯科衛生士が1人の患者さんに同時に声をかけると混乱させてしまうことがあるので気をつけよう」と話していた。ダウン症の長女(8)を通院させている40代の男性会社員は「5歳の初診時、歯科治療を怖がっていた娘が自分から診療椅子に座るまでスタッフが笑顔で促しながら30分近く待ってくれた。うれしかった」と話した。日本障害者歯科学会元理事長で現在も福岡で認定医の育成に取り組む緒方克也さん(72)は「誰もが口の中を健康に保つ権利がある。介護士や教育関係者など多職種が地域で協力していくことが大切だ」と話す。認定医のいる施設は日本障害者歯科学会のホームページから一部検索できる。順位 都道府県 人数 10万人当たり1 沖縄 28 1.932 長崎 25 1.885 福岡 76 1.4916 鹿児島 15 0.9425 山口 9 0.6634 熊本 10 0.5740 佐賀 3 0.3742 大分 4 0.3545 宮崎 3 0.28日本障害者歯科学会のデータ(2020年8月31日現在)と人口推計(19年10月1日現在)から作成