市販薬のせき止めを万引きしたとして、北海道七飯町の30歳代の男が8月、道警に窃盗容疑で逮捕される事件が起きた。男は、道警の調べに「何本も飲んだときの高揚感が気持ちよかった」と供述し、乱用目的で万引きしたことを明かした。専門家は「せき止めなどは入手のしやすさから、乱用が繰り返される傾向にある」として、薬物依存の危険性を周知することなどが重要と指摘している。(橋爪新拓)■万引き被害も男は8月、函館市内の大手ドラッグストアで、せき止めシロップ1本(120ミリ・リットル入り)を盗んだとして、函館中央署に窃盗容疑で逮捕された。捜査関係者によると、男は20歳代の頃、職場の同僚に「せき止めを大量に飲めば、ハイになれる。やってみたら」と持ちかけられたことをきっかけに、乱用を始めたと供述したという。1日当たりの服用量の上限が60ミリ・リットルのシロップをがぶ飲みし、12倍にあたる720ミリ・リットルを飲み干したこともあったという。道警は、男が日常的にせき止めを乱用していたことから購入費用がまかなえなくなり、万引きを繰り返したとみている。男は「高揚感が忘れられず、何度も服用した」と供述した。捜査関係者は「男は薬物依存だった。誰でも購入できる医薬品だが、乱用すれば覚醒剤や麻薬への入り口となり得る」と話した。被害にあったドラッグストアの担当者は「せき止めなどの万引きは後を絶たない」と漏らした。同店では陳列棚に置く医薬品の数を減らすなどの対策をしているが、「気づいた時には盗まれている」として、対策に苦慮している現状を明かした。■若年男性多く厚生労働省研究班は昨年度、薬物やアルコールなどの依存経験がある人の中から、一般用医薬品を乱用していた21人を抽出して調査を実施した。その結果、乱用者の平均年齢は37・5歳で、男性が95・2%だった。一般用医薬品の種類別(複数回答)では、せき止めが90・5%と最多で、風邪薬(76・2%)、鎮静剤(61・9%)などと続いた。せき止めの乱用を始めた時期は平均20・2歳。若年男性が繰り返し、せき止めを乱用する傾向があった。せき止め薬を乱用したという30歳代の男性は、調査に対し、「多幸感が強い」ことなどが動機だと説明。「大麻の使用はちゅうちょする」ため、仕事がつらいときなどに、せき止めを乱用していると明かした。このほか「違法じゃないし、手軽に手に入る」(40歳代男性)、「取り扱っている店が多い」(30歳代男性)などの声があった。一方、乱用者からは幻覚や意識消失など重い副作用を訴える声も相次いでいる。国立精神・神経医療研究センターの嶋根卓也・心理社会研究室長は「覚醒剤や危険ドラッグなどの違法薬物と同程度の薬物問題を抱える患者も少なくない。医薬品の安易な乱用を防ぐためにも、販売する薬局やドラッグストアなどが薬物依存の危険性を周知したり、支援窓口を伝えたりする啓発が必要だ」としている。