刑務所入所60歳以上の1割強「認知症傾向」 検査少なく実態不明 累犯者に疑い例


2018、19年に刑務所に入所した受刑者のうち76人が、入所段階で認知症と診断されていたことが、毎日新聞の調査で明らかになった。現在、入所時に認知症検査を実施しているのは全国の主要10刑務所に限られており、実際はさらに多くの受刑者が認知症を患った状態で入所しているとみられる。窃盗などを繰り返す累犯高齢者の中には認知症の疑いがある人も多く、専門家は「高齢受刑者全員を検査すべきだ」と指摘する。法務省は18年から試験的に、全国8カ所にある矯正管区の拠点刑務所(札幌、宮城、府中=東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)で、60歳以上の全受刑者を対象に、入所時に認知症の簡易検査を実施。19年8月からは女性受刑者を収容する栃木、和歌山の両刑務所でも導入した。毎日新聞がこれら10刑務所に書面でアンケートしたところ、19年に入所した60歳以上の受刑者948人中133人(14・0%)が簡易検査で「認知症傾向あり」と判定されていた。このうち全体の4・3%に当たる41人(全員男性)が、医師により「認知症または認知症の疑い」と診断された。拠点刑務所は再犯者ら犯罪傾向が進んだ受刑者を受け入れていることもあり、41人中40人は再犯だった。18年の検査結果については、法務省が19年11月の丸山穂高衆院議員(N国)の質問主意書への答弁書で、904人中109人(12・1%)が「認知症傾向あり」と回答している。法務省は毎日新聞の取材に、このうち35人(3・9%)が認知症と診断されていたと明らかにした。高齢受刑者の認知症を巡っては、法務省が15年、60歳以上の受刑者429人を対象に実施したサンプル調査で、受刑者の約14%に「認知症傾向あり」との推計結果が出た。ただ、ここには知的障害や薬物、アルコールなどの影響も含まれ、入所段階で実際に認知症と診断された受刑者の実態は分かっていなかった。全国には刑務所や拘置所などの刑事施設が75ある。18年に入所した60歳以上の男女計3294人のうち、認知症の簡易検査が導入された刑務所に入所したのは3割弱で、それ以外の施設に入所した受刑者は検査の対象になっていない。太田達也・慶応大教授(刑事政策)は「認知症を放置すると症状が進行することがある。適切な治療や処遇につなげるためにも早い段階から一定年齢以上の受刑者全員を対象に検査すべきだ」と話している。【一宮俊介】

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