東京電力福島第一原発事故後に県が続けている甲状腺検査について、検査責任者だった県立医大元教授らが専門家組織を設立した。検査をめぐっては、手術しなくてもよいがんを見つけてしまう「過剰診断」の弊害がたびたび指摘されている。元教授らは「いまもなお過剰診断を放置した状態が続いている」として改善を提言する予定だ。設立されたのは任意団体「若年型甲状腺癌(がん)研究会」で、特定の学会などに属さない独立組織。代表は3月末まで県立医大教授を務めていた大津留晶・長崎大客員教授が務める。津金昌一郎氏(国立がん研究センター)をはじめ、県の有識者会議メンバーと経験者3人を含む計8人で構成。今年11月に国際シンポジウムを予定しているほか、学術論文を発表するという。検査は原発事故当時に18歳以下だった県民ら約38万人が対象。これまでに先行検査を含む4回の検査などの結果、計241人が、がんまたはがんの疑いと診断された。本県の県民健康調査検討委員会は、最初の2回の検査について、「がんと放射線被曝(ひばく)との関連は認められない」などとする見解を出している。検査は過剰診断の問題が伴い、患者が本来は必要のない手術を受けてしまうほか、結婚時などに不利益や差別を受けるおそれなどが懸念されている。世界保健機関(WHO)の外部組織・国際がん研究機関(IARC)の専門家グループは2018年、原発事故後に周辺の全住民対象の検査は行わないよう勧告した。大津留代表は「検査の現場指揮を執っていた時に過剰診断を防ぐための提案をしたが、改善につながらなかった。行政主導の大規模事業で、方向転換しづらい事情もあるだろう。改善には、甲状腺がんが他のがんと異なる特徴を持つことなどを総合的に理解する必要がある」と組織設立の理由を語る。そのうえで、「検査を受けることが当然と考えてしまうため、学校で実施することはやめるべきだ。事前に検査の問題点を説明し、十分な時間をかけて必要と判断した人が受けることが望ましい」と指摘している。