人生100年時代、自分らしく、健康な身体を維持したいものです。
大正製薬株式会社は2024年6月に全国の35歳以上の男女1000名を対象に「健康寿命を延ばすためにやっていること」に関するインターネット調査を実施。「健康寿命を延ばすためにやっていること」としては、「睡眠時間を確保する」が最多で407名(/1000名中、以下同)、次点が「運動をする」(394名)、「特に何もやっていない」(368名)、「食べすぎに気を付ける」(359名)、「趣味を持つ」(312名)が続きました。休養と身体の運動機能のメンテナンスへの意識に次いで、食生活に関しては「食べすぎに気を付ける」が上位に来る結果となりました。
医師の久住英二先生によると、バランスの良い食生活、適度な運動、充分な睡眠、ストレスの排除などの基本的なことに取り組むことはもちろんですが、近年ではエイジングケアに寄与する栄養や成分に関する新しい知見が次々に発表されているので、それらを生活に取り入れることでより効果的な健康寿命対策ができる可能性があるそうです。
久住先生に、近年注目の健康寿命の延伸に役立つことが期待される対策を伺います。
【監修者プロフィール】 内科医・血液専門医 久住英二先生
1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。
様々な細胞機能を維持する「タウリン」。豊富な魚介類を積極的に食べる
タウリンは、体内で重要な役割を果たすアミノ酸の一種です。動物性食品に含まれており、特に魚やイカ、タコ、エビ、牡蠣などの魚介類に豊富に含まれています。細胞の浸透圧調節に深く関与しているタウリンは、細胞機能を維持するための様々な生理的プロセスに不可欠であることがわかっています。
タウリンは、体内の“サビ”(フリーラジカル、プラスとマイナスの電子が対になっていない分子。細胞やDNAにダメージを与える)を中和して細胞の酸化ダメージを防ぐことで、老化の進行を遅らせる可能性があります。
2023年6月、米国でタウリンが細胞のアンチエイジングに寄与することが発見され、大きな話題になりました。タウリンを豊富に含む食事を与えたマウスは寿命が延び、健康状態も良好に保たれていました。これは、タウリンが細胞の機能を改善し、老化に伴う疾患を予防する可能性を示唆しています。また、人間での研究でも、世界の中のタウリン摂取量が多い地域では、心血管疾患の発生率が低いことが示唆されています。高齢者を対象とした研究でも、タウリンの補給が認知機能の改善や身体機能の維持に役立つことが示されています。
血圧を調節して血管の柔軟性を保つ効果もあるので、動脈硬化や高血圧のリスクを低減、心筋梗塞や脳卒中の予防につながることも期待できます。また、白血球の機能をサポートし、体内の感染症や感染による炎症反応を抑えることで免疫力の維持にも役立つと見込まれています。体内の毒素の解毒や代謝を管理する臓器である肝臓の細胞を保護し、肝機能を向上させる効果も。
筋肉のパフォーマンスと回復力を向上させることは有名ですが、筋肉の収縮と成長を助け、加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)を防ぐ効果も期待されています。
サルコペニア対策のコーヒー、美肌維持の緑茶
「コーヒーを飲む習慣がある人はいつまでも動ける」という言葉を耳にしたことはありませんか?その背景には、コーヒー豆に含まれるアルカロイドの一種、トリゴネンが関係しています。トリゴネンは特にローストされたコーヒーに多く含まれ、抗炎症作用を持つことが知られています。
トリゴネンには、サルコペニア(加齢に伴う筋肉量と筋力の減少)の進行を遅らせる効果が期待されています。慢性的な炎症による筋肉分解を防ぎ、さらには抗酸化作用もあり、細胞や組織の酸化ストレスを軽減するといわれます。トリゴネンには筋肉の成長と修復に重要なホルモンであるインスリンの感受性を改善する作用があり、この感受性が向上すると筋肉の合成が促進されるという仕組みです。
また、神経保護作用によって神経筋接合部の健康を維持する可能性も示唆されており、筋肉の制御と機能が改善され、筋力低下を防ぐ効果が期待されています。
緑茶に含まれるカテキンの一種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)は、体内のフリーラジカルを中和する強力な抗酸化作用を持ちます。フリーラジカルによる細胞の損傷を防ぎ、老化を遅らせる効果が期待されています。紫外線や化学物質によるDNA損傷を軽減することがわかっており、肌のコラーゲンを保護し、分解を抑制する効果もわかっています。
カレーには黒コショウ
カレーのターメリック(ウコン)に含まれるポリフェノールの一種のクルクミンは、強力な抗酸化作用や抗炎症作用を持ちます。近年では、アルツハイマー病の特徴であるアミロイドβの蓄積を抑制することがわかり、認知症の予防にも効果があると考えられています。脂溶性なので油と一緒に摂ると吸収されやすく、また、黒コショウに含まれるピペリンという成分と合わせることで吸収率が上がるので、カレーに黒コショウをかけるのもおすすめです。
きのこ類をたっぷり食べる
シイタケ、マイタケ、シャンピニオンなどのきのこ類や全粒の大麦、ライ麦などに含まれるエルゴチオネインは抗酸化作用を持つアミノ酸で、細胞の酸化ストレスを軽減し、老化を遅らせる効果が期待されています。生活習慣病予防、さらには認知症予防にも寄与することが期待されています。酸化ストレスから眼の細胞や肝臓の細胞、神経の細胞を保護することもわかっています。
サプリや生薬の注目株は…
ニコチンアミドリボシド(NR)とニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)
NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、人の体内にももともと存在する成分で、細胞のエネルギー代謝やDNA修復に関与するといわれますが、加齢に伴ってそのレベルが低下します。
NAD+前駆体(最終的にその成分になる前段階の物質)としてよく研究されているのはニコチンアミドリボシド(NR)とニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)で、エネルギーレベルの向上(細胞内のミトコンドリアでのエネルギー代謝の向上)や抗老化効果、神経保護効果があることが示唆されています。
これらを摂取すると細胞の遺伝子(DNA)が修復されることで、エネルギー代謝が向上。身体の細胞の生まれ変わる速さが若い頃のそれに近づき、身体全体の抗老化効果が期待できるという仕組みです。
ニコチンアミドリボシド(NR)を含む食品は牛乳、乳製品・鮭やサバなどの脂の乗った魚・緑黄色野菜、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含む食品はエダマメ・ブロッコリー・キャベツ・アボカド・キュウリ・トマトなどです。ただ、2つとも食品に含まれる量はほんのわずかなので、エイジングケア効果を得るためにはサプリメントなどで摂取することがおすすめです。
アストラガロサイド IV(黄耆(おうぎ)の成分)
アストラガロサイド IVは生薬の一種である黄耆(おうぎ。マメ科の多年草で、その根が伝統的な漢方薬や中医学で広く使用されています)の根に含まれる成分で、免疫機能の強化や抗炎症作用、抗酸化作用を持ちます。
アストラガロサイド IVには、テロメアの長さを維持して細胞の老化を遅らせる効果があることがわかっています。テロメアとは、染色体の末端に存在するDNA配列の繰り返しのことで、染色体を保護する役割を持ちます。テロメアは、細胞が分裂するたびに少しずつ短くなります。テロメアが非常に短くなると、細胞は分裂を停止し、老化やアポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起こします。
アストラガロサイドIVはテロメアの長さを維持する役割を持つテロメラーゼという酵素の活性を高めます。テロメラーゼ活性が高まることで、テロメアの短縮が遅れ、細胞の寿命が延びることが期待できます。同時にテロメアの短縮を加速させる酸化ストレスや慢性的な炎症を軽減することもわかっています。また、心血管系の健康維持や代謝機能の改善にも効果があるとされています。
就寝時のアロマテラピーが認知症対策に
近年の研究では、香りを嗅ぐことで脳が活性化され、認知機能を改善する効果があることがわかってきています。パーキンソン病患者や高齢者を対象とした実験で、香りが脳に与えるポジティブな影響がいくつか確認されています。
パーキンソン病患者を対象とした実験では、毎日数種の香りを嗅ぐことで言語の流暢さが改善され、50歳以上の成人を対象とした実験では、エッセンシャルオイル4種を毎日2回嗅ぐことで言語機能が向上し、うつ症状も緩和されたといいます。さらに、認知機能低下の恐れがある高齢者を対象とした実験では、9つの香りを嗅ぐことで認知症症状の抑制に効果があることがわかりました。
就寝時に香りを嗅ぎながら眠ると同様の効果が得られることも実証されています。半年間、香りと共に眠る群とそうでない群を比較した実験では、香りを嗅ぎながら眠ったグループで言語の学習や記憶の検査の成績が向上し、対照群では悪化するという結果に。また、脳の鉤状束(こうじょうそく。脳の白質線維の一部で言語機能に関与する神経経路)という領域の機能も改善されました。この実験で使用された香りの種類はバラ、オレンジ、ユーカリ、レモン、ペパーミント、ローズマリー、ラベンダーの7種だったそうです。
日々世界中で研究されている健康成分についてのリテラシーを高め、より進化した健康寿命対策に取り組んでいきたいですね。