大腸がんの細胞から抗がん作用のある3種類の細菌を取り出すことに、北陸先端科学技術大学院大(石川県能美市)の都英次郎准教授(生物工学)の研究グループがマウスの実験で成功した。細菌を使った新たながん治療法の確立に近づく成果だとして研究を進め、5〜10年以内の実用化を目指す。【関連記事】都准教授によると、がんには手術、抗がん剤、放射線の3大療法のほか、免疫細胞療法などの技術開発が進むものの、副作用や有効ながんが限られていることなどが課題となっている。欧米では、腫瘍内に存在する細菌を治療に生かす研究も、ヒトへの臨床試験の段階に至っている。ただ、遺伝子組み換えで弱毒化したサルモネラ菌などを使う場合が多く、これらの細菌が体内で再び強毒化するリスクも懸念されている。病原性のない細菌で研究していた都准教授のグループはマウスの大腸の腫瘍から取り出した細菌を培養。マウスに戻した結果、3種類の細菌に高い抗がん作用があることが分かった。細菌の働きを「あうんの呼吸」になぞらえ「A-gyo」()と「UN-gyo」()、これらの複合型であるもう1種類を「AUN」()とそれぞれ名付けた。阿吽が阿形と吽形の相互作用で、より強い薬効を示したことが命名の由来という。現在、国内の製薬会社2社と有効性や安全性を確認する共同研究をしており、今後は細菌の相互作用の仕組み解明や、サルなど他の動物による実験を進めてヒトへの臨床試験につなげる。都准教授は「共同研究もうまくいっている。いち早く患者に届けたいという一心だ」と話した。研究論文はドイツの科学誌「アドバンスト・サイエンス」オンライン版に8日付(日本時間)で掲載された。(平野誠也)