【インタビュー】一般社団法人日本在宅介護協会 稲葉雅之副会長


一般社団法人日本在宅介護協会(東京都新宿区)は、在宅介護サービスを提供する民間事業者の団体。業界の健全な発展を目指し、国への政策提案や事業者への研修、情報発信を行っている。同協会の稲葉雅之副会長に、在宅介護市場の現状と展望、そして協会の今後の活動について話を聞いた。専門職の本来業務時間最大化──構築が急がれる地域包括ケアにおいて、在宅介護は欠かせない要素となっている。稲葉 現状では、地域包括ケアに関わる個々のプレイヤーが有機的に結びついているとは言えない。ケアをマネジメントする居宅介護支援事業所や地域包括支援センターが、その力を発揮しきれていないことが背景にあると思われる。例えば、ケアマネは医師などに対してどうしても遠慮がある。フラットに意見を言い合える関係が本来は望ましい。自然災害の発生時に利用者を守るためにも、ケアマネがリーダーシップをとる意義は大きい。現在、事業所の質が問われていることは論を待たない。ただし、「質」とはなにか、その基準は一定でない。 そういったことに問題意識を感じ、その改善に向けて取り組んできた人達もいる。科学的介護もその一環として捉えることができる。そもそも、人の幸福は数値化できない。しかし、「生命が守られる」「病気になっていない」など普遍的な人間性に基づき、質の向上に向けた大きな方向性を示すことはできるだろう。──施設を中心にICT化が進んでいる。在宅ではどうか。稲葉 進めていくべき。特に事務作業についてはICT化で軽減すべきだ。実際、介護記録では、ヘルパーが利用者宅訪問時にとったメモを基に事務所でそれを清書する、といった2度手間が生じている。その記録が活用されることも少ない。例えば、電子記録と音声入力を使用して、現地で簡単な記録を残すだけで十分ではないか、といった大胆な議論が起きても良い頃だろう。専門職が本来業務を行う時間が最大になるようにすべきだ。──軽度者改革もあり、保険外サービスの活用も必要となる。稲葉 保険外サービスについてはケアマネの使い慣れ具合に個人差があり、また法的な理解も進んでいないため利用件数は低調だ。しかし、上手く使えば利用者の「実現したいこと」を叶え、QOLを高めることができる。まずは理解促進が必要だ。保険者側の発信強化に期待したい。翻って、軽度者への給付適正化の方法として一律に保険外サービスで対応する、というのは疑問に思う。軽度者への給付を薄くすることは、要介護度を重度化させるリスクを高めることになりかねない。一方、現実問題として財源は有限であり、どこかを削らねばならない場合がある。給付以外でも、質を落とさず効率化できる部分はあるはずだ。振り返れば、一定の要件を満たせば訪問介護のサービス提供責任者が非常勤でも可となり、人員配置基準が緩和された際にも、「質の低下を招く」といった声が多く挙がった。実際には、「フルタイムは無理だが非常勤なら働ける」といった層の中で優秀な人材がサ責になれるようになったことで、質はかえって向上した面もある。これと同じく、法人側でしっかりと管理することを前提に、就労の要件を高くし過ぎないようにする、それによって質の高い専門職を確保しつつ効率化を実現できると思う。──社会保障審議会介護給付費分科会で委員を務めている。今後、何を訴えていくか。稲葉 国の財源は無限ではない。「介護」が国の重要課題であるのは間違いないが、ほかにも国家的課題はあるという現実も認識しないと建設的な議論につながらない。健全に事業が発展する環境、職員がしっかりと生活できる報酬を前提に、様々な知恵を凝らして社会保障改革を進めることを訴えていきたい。特に、先の例のように、質を落とさず規制を緩和することを積極的に提案していく。この国の将来について、次世代のこと、ほかの業界や産業のことも含めてバランスよく考えていく必要があると認識している。

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