第56回日本薬剤師会学術大会座長
日本薬剤師会理事
川名三知代
和歌山県薬剤師会常務理事
金子雅好小児の在宅医療で出会う疾患は重症かつ希少性が高く、薬学的ケアに関する情報を共有できる場もほとんどない。それでも、この領域に一歩踏み込めば「何かできることはないか」と問い続け、薬剤師としての責任感と使命感に駆られるから不思議である。近年の小児医療の進歩により、重症の難治性疾患の小児も病院での急性期治療を終えて、人工呼吸管理や栄養管理等の医療的ケアを継続しながら在宅生活へ移行する機会が増加し、医療的ケアを継続しながら成長する小児(医療的ケア児)の在宅医療のニーズが高まっている。2016年5月に障害者総合支援法が改正され、医療的ケア児や家族への制度的な支援が始まり、21年6月の医療的ケア児支援法の成立により支援の動きは加速されつつある。22年の調剤報酬改定では医療的ケア児に対する薬学的管理が評価され、小児特定加算も新設された。医療的ケア児の原疾患は様々だが、日常的に医療機器を必要とするため通院が困難であり、自宅での継続的な医療的ケアを支える家族への支援が喫緊の課題となっている。21年に日本薬剤師会が実施した医療的ケア児に対する薬学的ケアの実態調査からは、全国各地で医療的ケア児に対する院外処方箋が発行され、保険薬局では幅広い年齢層の医療的ケア児に対応していることが分かった。その薬学的ケアは薬剤師の訪問と直結するものではないが、重症度が高い場合に在宅患者訪問薬剤管理指導のニーズが高いことも示された。また、適切な剤型の医薬品が供給されない小児領域において薬剤師は、曝露対策の設備も整わない中で、薬理活性の高い医薬品の加工や散剤調剤に取り組み、患者安全や家族のQOL改善および維持に直結する薬学的ケアを行っていた。本分科会では、医療的ケア児を含めた小児に対する在宅医療における薬剤師の関わりについて、社会的状況を理解し、先駆者たちの経験を共有する。そしてこれから何をすべきか一緒に考える機会としたい。(川名三知代)