医療的ケア児の在宅医療を推進する社会インフラの一角として、薬局薬剤師が期待されている。今春の調剤報酬改定では、医療的ケア児に薬学的管理や指導を行った場合の評価として「小児特定加算」が新設された。医療的ケア児とは、NICU等に長期入院後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のことを指す。全国に在宅の医療的ケア児は約2万人いるとされ、この十数年で2倍に増えた。医療的ケア児には多くの場合、経管で投与するため薬剤を粉砕する必要がある。適応外使用や小児用量、相互作用、配合変化など専門的な知識も求められる。投与される薬剤数は多く、調剤に手間や時間がかかる。こうした手間を考慮して加算が新設されたと捉えがちだが、狙いは異なる。薬剤師に求められているのは、個々の患児に応じた調剤設計を行い、薬学的管理を担うという意味で対人業務に近い。仙台市で開かれた日本薬剤師会学術大会の分科会でも、医療的ケア児への対応がテーマになった。小児領域に関わる医師や薬剤師が口を揃えて強調したのが、患児だけでなく家族のケアにも目を向ける姿勢だ。入院中はスタッフの手厚い支援を受けられるが、在宅医療に移行した途端、患児の看護や介護が家族の大きな負担になる。慣れない環境で家族が不安を感じ、疲れ果ててしまうと、医療の質を保つことが難しくなる。日薬理事の立場で講演した川名三知代氏(ココカラファイン薬局砧店)は「家族の日常生活が破壊されずに在宅医療が行われる社会システムの整備が必要。そこに薬剤師の専門性を発揮できる場がある」と強調。医療だけでなく、福祉の視点を取り入れるよう呼びかけた。病院薬剤師の立場で話した笠原庸子氏(県立広島病院薬剤科)は「服薬支援はもちろん、生活支援も視野に入れた対応が重要。患児や家族の気持ちのサポートが大事になる」と指摘。「院内外の多職種で在宅移行後の詳細な対応を話し合う退院前カンファレンスに参加してほしい」と薬局薬剤師に求めた。一方、国立成育医療研究センター総合診療部長の医師、中村知夫氏は「医療的ケア児に対応できる薬局を探すのが大変。分かるようにしてほしい」と投げかけた。各地でモデル事業が行われており、いくつかの地域では見える化が進んでいる。長崎県では、講演会や多職種意見交換会などを開催し、参加した薬剤師が勤務する約50薬局が「医療的ケア児協力薬局」となった。広島県薬剤師会は医療的ケア児の調剤に対応できる薬局を調べ、ウェブサイトにリストを掲載している。医療的ケア児の在宅移行を円滑に行うために、受け皿となる薬局の明確化を全国的に進めることも重要な課題だ。