大阪大と国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)に在籍していた男性医師が研究論文5本で不正をしていたとされる問題で、国循の調査委員会(委員長=仲野徹・大阪大教授)が新たにがん関連の論文2本で捏造(ねつぞう)と改ざんの不正があったと認定する方針を決めたことが、関係者への取材で分かった。2本の責任著者だった国循の元研究所長にも管理責任があるとみているという。男性医師は2001~18年に大阪大病院(同市)の医員や国循の室長を務めた野尻崇医師。野尻氏の論文を巡っては、21本について疑義があるとの告発が寄せられ、大阪大と国循は20年8月、うち5本でグラフの作成などに不正があったと公表。その後、21本とは別の論文5本を追加調査していた。関係者によると、不正を認定する2本のうちの1本は、「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)」というホルモンに、がんの転移を防ぐ効果があると主張する内容で、15年に米科学アカデミー紀要に掲載された。調査委は、この論文で示された動物実験のグラフが元データと食い違い、捏造や改ざんに当たると判断。「不正確な数値の手入力が行われており、意図がなければ起こり得ない」などとし、「故意による不正」と認定する考えという。患者での有効性を示すデータに不正はなく、論文の結論には影響がないとみている。大阪大病院はこの論文を根拠に15年から臨床研究を始めた。肺がん患者が対象で、肺の一部を切除する手術の前後にANPを投与して5年間経過を観察する計画。現在は中断中で、参加10施設で投与を受けた160人に重大な健康被害は確認されていないという。もう1本も同様にANPを使ったがんの抑制に関する論文で、データの一部に不正があったという。一方、責任著者で、野尻氏の上司だった元国循研究所長の寒川(かんがわ)賢治氏については、「不正行為には関与していないが、論文の作成全体を統括する立場だった」として管理責任があると判断したとみられる。野尻氏は既に大阪大と国循を退職しているが、大阪大は懲戒解雇相当とする処分を下しており、国循も調査結果を受けて何らかの処分をするとみられる。