京都大iPS細胞研究所の研究チームは12日、体が徐々に動かせなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者に対し、既存の白血病治療薬「ボスチニブ」を投与する治験で、病気の進行を抑制する有効性を確認したと発表した。投与した患者26人中、半数以上で運動機能障害の進行を抑制する効果がみられたとしている。チームは患者の細胞から作った人工多能性幹細胞(iPS細胞)を運動神経に分化させてALSの病態を再現。これに多数の既存薬を加えて効果を調べ、ボスチニブが進行を遅らせることを突き止め、2017年に発表した。第1段階の治験として病状が進行中の9人に3カ月間投与し、5人は投与期間中、症状が悪化しなかった。このため22年から対象を26人、投与期間を半年に拡大して第2段階の治験を実施、効果を調べていた。状態は患者によってばらつきがあるが、歩行や指先の運動など日常生活を送る機能が低下するのを抑制できたという。iPS細胞を使って治療薬や治療法を探す手法は「iPS創薬」と呼ばれる。チームの井上治久教授(神経科学)は「ポジティブな結果に驚いた。なるべく早く患者さんの手元に薬を届けたい」と話し、薬の承認申請を視野に、最終的な治験の実施を目指すとしている。ALSの国内患者数は約1万人。進行を緩和する既存薬はいくつかあるが、進行を止める根本的な治療法は確立されていない。ALS患者では運動神経細胞の脱落や神経細胞への異常なたんぱく質の蓄積が見られるが、ボスチニブにはこれらを抑える働きがあることが分かっており、根治的な治療につながる可能性があるという。【菅沼舞】