親が心の病気 子どもの不安「相談したら裏切ることに…」 悩みに寄り添う児童書出版


親が心の病気になった子どもたちに向けて書かれたドイツの児童書「悲しいけど、青空の日」が翻訳、出版された。不安を抱きながら誰にもうち明けられずに思い悩む子どもたちが多いといい、翻訳した佛教大准教授の田野中恭子さん(公衆衛生看護学)は「何に頼り、どう乗り越えていったらいいか、ヒントにしてほしい。『あなたは一人じゃないよ』と伝えたい」と話している。主人公は、ママと2人暮らしをする9歳の女の子モナ。ママと一緒にいて楽しい日々を「青空の日」と呼んでいる。でも、ママが弱ってソファに横たわる「悲しい日」もある。料理を作ってくれず、部屋は散らかり、友だちを家に招くこともできない。「ママはどうしてあんなに悲しいのかな?」「ママが笑ってくれるのならなんでもする。私…」。理由が分からず、モナはおまじないをするなど試行錯誤をする。心の底では世話をしてくれないママに怒っているけれど、怒れば「ママがもっと悪くなってしまう!」と思う。第1章でモナの日常を描き、第2章でモナが同じ境遇にいる子どもたちに向けて病気の説明をしたり、相談方法をアドバイスしたりする。第3章は大人に向けた解説。精神疾患の親を持つ子どもの研究や実態調査をする田野中さんは「モナのような子どもは少なくない」。ドイツでは、統合失調症やうつ病の親を持つ子どもは、およそ50万人と推定。英国でも子ども(5~15歳)の4人に1人の親が精神疾患の経験があるという。日本では子どもたちの調査が進んでおらず、実態はよく分かっていないが、厚生労働省の患者調査で、うつ病や統合失調症、認知症などで医療機関を受診した患者数は2014年は392万人、17年は419万人。「受診していない人も含めるともっと多く、そうした親がいる子どもも少なくない」と指摘する。家族の会はあるが、自らの思いを吐露するのは精神疾患の子を持つ親が多いという。親が精神疾患の子どもが表に出にくい理由として、田野中さんは「誰かに親のプライバシーを話すのは『親を裏切ること』という思いを持つから。また、周囲の大人がひそひそ話をするので、『外ではあまりしゃべらないほうがいい』と子どもなりに察してしまう」とする。また、親が精神疾患を患ったら、負担を掛けないようにと子どもに病気について説明しないことが多い。その結果、子どもは親の変化の原因を「自分が悪いからだ」と考え、困りごとや悩みを自分一人で抱えて苦しんでいく。そんな子どもたちのつらい思いを解きほぐそうと、精神疾患の親がいる子どもなどを支援するドイツのシュリン・ホーマイヤーさんが06年に「悲しいけど-」を書いた。子どもたちの疑問に答える内容が評判を呼び、スイスなどでも翻訳・出版されている。田野中さんは「子どもたちが『こんなふうに相談してもいいんだな』『友だちと楽しく遊んでもいいんだな』と気付き、自分自身を大事にするようになってほしい。周囲の大人たちも子どもたちのつらさや病気について理解を深めてほしい」と話す。2640円。サウザンブックス社刊。

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