京都大医学部付属病院(京都市左京区)で重い副作用がある薬の情報が共有されず投薬後に女性患者=当時(29)=が死亡したとして、女性の夫(40)らが京大や主治医らに計1億8750万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が17日、京都地裁であった。野田恵司裁判長は、亡くなる直前に診察した医師が投薬を怠った過失を認め、京大に1億3500万円を支払うよう命じた。判決によると、血液疾患を患って京大病院血液内科で治療を受けていた女性は、妊娠後の2016年1月、同科との連携を期待して別の産婦人科医院から京大病院の産科に転院した。4月から血液内科で治療のため、新薬の投与を開始。同薬には免疫力が低下し、髄膜炎菌感染症が発症しやすくなる副作用があった。女性は京大病院で8月1日に長男を出産後も通院し同22日、新薬投与後に自宅で発熱。産科に連絡したが、助産師は新薬投与を知らず、「乳腺炎と考えられる」と自宅安静を指示した。しかし容体が悪化し、血液内科の医師に診察を受けたが経過観察とされ、翌23日に髄膜炎菌感染症による敗血症で死亡した。判決理由で野田裁判長は、新薬の添付文書に従い、女性の容体悪化後、医師が速やかに抗菌薬を投与する義務があったと指摘。「投与していれば救命できた蓋然[がいぜん]性が高い」と述べ、投薬義務違反と死亡との因果関係を認めた。一方、血液内科の医師が産科医らに投薬の情報を周知する義務があったとする原告側の訴えについて、投薬内容を記した患者カードを提示するよう血液内科医が女性に指示していた経緯を踏まえ、「医師には周知すべき注意義務はなかった」と退けた。女性の夫は「勝訴できて安心したが、それは妻を救えたという証明でもあり、つらい。裁判での立証は難しいのかもしれないが、病院内で情報共有は必要だと思うし、義務が無いという判断は納得できない」と話した。京大病院は「判決文が届いていないのでコメントを控える」としている。