福島県の福島医大は放射性核種を用いた世界最先端のがん治療薬の早期開発に向け、国内で未整備となっている治療用放射性薬剤の創薬環境の規制基準について国際的な知見を収集し、開発体制を構築する。国の審査を円滑にクリアできる試験環境などを整えることで、開発期間の短縮につなげる。がん治療薬の開発は、4月に開設される福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)に参画する同大の重点事業。来月上旬に欧州の先進国を視察し、規制状況を調査する。新薬を作るには、国の規制当局の審査をクリアした施設や機器で非臨床試験(動物への投与)などを行い、安全性や効果を確かめる必要がある。治療用放射性薬剤の場合、放射性物質の拡散防止対策や衛生管理などが審査項目になると考えられる。福島医大によると、国内には、既に普及している診断用放射性薬剤についての創薬環境の基準(ガイドライン)はあるが、開発の難度が高いとされる先進分野の治療用放射性薬剤にはない。国内ではこれまでにも治療用放射性薬剤の開発例はあるが、規制基準がないため、規制当局の厚生労働省や原子力規制庁との調整、審査に時間を要するとの懸念があった。海外の知見を踏まえ、開発工程で求められる各種条件をあらかじめ想定した体制を構築することで、規制当局と調整する負担が減り、開発がスムーズに進むと期待される。同大はエフレイの設置を機に、副腎や前立腺、消化器、肝臓などのがん治療薬の研究開発を加速させ、本県を放射線科学・創薬医療分野の拠点とする構想を掲げる。医薬品をいち早く患者に提供するには規制に関する国際的知見の収集が不可欠と判断した。ガイドラインの整備を国に提案することも検討する。欧州視察は同大の研究者が10日間程度かけてドイツなど数カ国を巡り、各国の規制や治療用放射性薬剤の開発状況を調査する。国内でも研究機関への聞き取りや文献調査に着手する。これに先立ち、28、29の両日に南相馬市で国際シンポジウムを開き、治療用放射性薬剤の規制を巡る課題や今後の展望について探る。欧州や米国の専門家らが登壇する。一般的に治療用放射性薬剤は、疾患の発見に役立つ診断用放射性薬剤と比べて開発が難しいとされる。同大先端臨床研究センターの志賀哲教授は「成果を県民にいち早く還元し、福島復興に貢献したい。国際的な知見を得て課題を乗り越えていく」と語った。