京都府立医科大(京都市上京区)が新入生らを対象に、両親が医師かどうかや結婚・育児に関する個人の価値観に踏み込んだアンケートを行っていた問題で、竹中洋学長は1日、「人権への配慮を欠き、不適切な表現が見られた。深く反省している」と謝罪した。外部有識者を含めた調査委員会を設置し、内容などを見直す考えも示した。この日同大学で開いた定例の記者会見で述べた。竹中学長は「過去に回答者から問題があるとの意見があったが、見直しに至っていなかった。調査委で課題点などをさらに明らかにしたい」と述べた。また子育てをする研究者への支援の必要性を強調。大学のワークライフバランス支援の事業について「内容や今後の方向性をどう担保するか見直す。個人の尊厳や社会倫理意識の醸成につながるようにしたい」と語った。アンケートは2016年から5年間にわたり、学部や大学院の新入生、研修医らを対象に年度初めに実施した。親の職業を「医師/医師以外/その他・離別」の選択肢で尋ね、結婚や子を育てることの願望の有無、女性が育児しながら仕事を続けることの是非などを聞いた。回答者個人が特定されかねない項目も含まれていた。◇京都府立医科大で個人の価値観に踏み込む形でアンケートが行われていた。高い倫理性が求められるはずの医学部で明らかになった「非常識」な慣習。背景には医学界の閉鎖性がある。質問で特徴的なのは、結婚相手の希望や両親について医師か否かを軸に尋ねる項目だ。医師という職業の特殊性を強く意識する土壌がうかがえる。「ほかの職業が目に入っていないかのような視野の狭さを感じさせる」。関西の病院で医師の勤務経験がある一般社団法人「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表理事はそう指摘する。なぜ、こうした閉鎖性が生まれるのか。榎木さんが背景として挙げるのが、医学界の多様性のなさだ。榎木さんによると、医師たちは親族も同業というケースが多かったり他の職業の人たちと共に仕事をする機会が少なかったりして、価値観が偏りやすい。また医療現場では、昼夜を問わない過重労働が褒められる精神論がはびこってきたこともあり、若い男性医師が「使い勝手が良い」と求められやすいという。実際、「アンケートの一部からは『育児は女性』といった旧態依然とした価値観が垣間見える」とも分析する。2018年には、東京医科大の入試で女性受験生に不利益な得点操作が発覚。医学界の閉鎖性は批判され続けてきた。榎木さんは「さまざまな課題が近年指摘されるのは、解決に向けた端緒についたとも取れる。今回のアンケートも外部の意見を取り入れながら、バランスの良いものにするべきだ」と指摘。その上で「医学界の課題解決は決して容易ではなく、何歩も前進しないといけない」とくぎを刺した。