鎮静剤投与死、医師2人を在宅起訴 安易な薬使用も


東京女子医大病院(東京・新宿)で2014年、手術後に鎮静剤「プロポフォール」を投与された男児(当時2)が死亡した医療事故で、東京地検は26日、当時同病院の中央集中治療室(ICU)を統括していた小谷透元准教授(61)ら麻酔科医2人を業務上過失致死罪で在宅起訴した。ほかに起訴したのは中央集中治療室に所属していた福田聡史医師(39)。起訴状によると2人は14年2月18~21日、首の腫瘍を取り除く手術を受け人工呼吸器をつけていた男児に対してプロポフォールを投与した際、心電図に異常がみられるなど容体に変化があったにもかかわらず投与を中止せず、男児を急性循環不全で死亡させたとされる。プロポフォールは製薬会社の添付文書で、人工呼吸中の子どもへの投与が原則禁止とされていた。東京地検は起訴状で、小谷被告らには副作用の兆候を早期に発見するために観察し、容体の変化があった場合には代替薬を投与するなど適切に対処する業務上の注意義務があったと指摘した。男児は14年2月18日に同病院で手術を受けた際、人工呼吸器をつけた状態で集中治療室に運ばれた。男児にはプロポフォールが約70時間にわたって投与され、投与量は成人の許容量の2.7倍だった。捜査では男児の心電図の異常がみられた手術2日後の対応が焦点になった。警視庁は麻酔科の専門家ら50人超から意見を聴き、男児への投与を中止しなかった麻酔科医らの対応は不適切だったと判断。20年10月、計6人を書類送検した。捜査関係者によると、小谷被告は当時ICUの実質的な責任者で、プロポフォールの投与などについて福田被告らに指示する立場にあった。東京地検は書類送検された6人のうち、2人の責任が特に重いと判断したとみられる。他の4人の医師はいずれも起訴猶予処分とした。東京女子医大病院で男児に投与された鎮静剤プロポフォールは効果が速く、投与をやめるとすぐに目が覚める「キレのよい薬」として使われている。ただ成人を含めて副作用が起きることがあり、事件は安易な薬の使用に警鐘を鳴らした。医薬品は添付文書で効果のほか、副作用を記載して使用する条件を提示している。2014年当時、プロポフォールが集中治療室(ICU)の小児について原則禁止とされていたのは、ICUでは投与が長時間になりがちで、副作用が起きやすいためだ。だが実際にはICUでも小児に使われていた。男児の死亡を受け厚生労働省研究班が調査したところ、13年に小児用ICUで同様に人工呼吸器をつけて治療した子どもの約4%にあたる約190人に投与されていた。医薬品の添付文書の注意には法的拘束力はなく、使用は医師の裁量に任される部分がある。ある麻酔科の専門医は「本来、プロポフォールはさまざまに応用できる可能性がある素晴らしい薬」と指摘。そのうえで「医療現場では使い方や使う人を限定できれば、小児に使えるようにする必要があると評価している」という。一方、成人でも不適切な投与で副作用被害が起きている。その一つが持続投与中に鎮静効果を高めるために急速投与する「フラッシュ」という手法だ。人手が少ない病棟で患者が動き出さないように急速投与を繰り返すケースがあり、死亡につながる例も出ている。薬は効果と副作用のある「もろ刃の剣」だ。現場の医師の裁量を認める一方で、判明したリスクの高い使用法などは添付文書に追記し、絶えず注意喚起することが求められる。(社会保障エディター 前村聡)

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