「相談」が消えた「かかりつけ医機能」 審議会決定に反する法定化/浅川澄一氏


注目されていた「かかりつけ医機能」の法定化が実現する。医療法の改正案が今国会で審議される。だが、その法案には大きな問題点がある。改正されるのは第6条。「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置、その他の医療の提供を行う機能(以下「かかりつけ医機能」という)」という内容が新たに加わった。ところが、法定化を決めた12月28日の社会保障審議会医療部会の意見書では、「現行の医療法施行規則を踏まえた内容とする」と書かれている。その施行規則には、かかりつけ医の機能を「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能」と定めている。2019年3月に作成された。提出された改正案とは明らかに異なる。施行規則に記されている「健康管理に関する相談等」が、改正法案では抜け落ちた。代わりに「疾病の予防のための措置、その他の医療の提供」が入った。「健康相談」を意図的に外したと思われる。改正案を作成した厚労省医政局に問うと「法制上の調整をした結果こうなった。文案が変わったように見えるが、趣旨は変えていない。これから作る施行規則には『相談』が入るはず」と、よく分からない答えが返ってきた。「健康相談」を盛り込まなかった理由として、「診療報酬の対象でないから」「健康相談が責務となると、健康な住民の登録制につながりかねない」という声がある。登録制に反対するのは日本医師会。だが、医師会は「患者さん及び家族からの健康相談」をかかりつけ医の役目としてきた。いずれにしろ、相談業務の明確化を嫌ったのは確かだ。医療部会の委員は黙認するのだろうか。そこで、思い起こされるのは「家庭医」問題である。1987年に当時の厚生省の「家庭医に関する懇談会」(座長・小泉明東大教授)は「家庭医機能10項目」を提言し、家庭医の実現に動いた。10項目の中の第2項目に「健康相談及び指導を十分に行うこと」とある。必須の業務として織り込んでいる。この家庭医構想はその後、日本医師会から強い反対に遭う。力負けした厚生省は、構想を全面的に取り下げ、以後、家庭医の用語すら省内で禁句としてしまう。代わって日本医師会が「発明」したのがかかりつけ医であった。だが、現場の医師の間では、「家庭医療専門医」が2009年から養成されており、約1000人の医師が資格を持つ。家庭医の普及を目指す日本プライマリ・ケア連合学会(草場鉄周理事長)が主導し、研修終了生に与える認定制度である。2020年には、110の国と地域の家庭医学会が加盟する世界家庭医機構(WONCA)から国際認証を得て評価を確立させた。相談を重視しているのは、家庭医療専門医の資格を持つ東京都品川区の診療所、「みんなのクリニック大井町」の年森慎一院長。玄関ドアの外に「あなたのどんな悩みでも、私たち家庭医に相談してください」と書かれており、「相談」を強調している。診察前に患者が記入する「家庭診療問診票」では、「ご職業は何ですか」と尋ね、「家族について教えてください」との項目で続柄や年齢、病名を記入する。生活の全容を把握し相談事にのる。「仕事内容は必ず聞く」と前向きだ。 「小児問診票」では、「学校は楽しいですか」と問う。「いいえにチェックされていれば、どうしてなの、と話が広がっていきます」。家庭医療専門医の常勤医が3人いるのは川崎市多摩区の多摩ファミリークリニック。健康相談だけでなく医療福祉の相談窓口を設けている。施設入居を検討中の高齢女性から、入居費についてソーシャルワーカーが相談を受ける。「息子さんの退職金を当てにしているので、定年までの1カ月間は、うちから訪問診療に入ることにしました」。ソーシャルワーカーが2人もいて、ケアマネジャーと連携し介護保険の在宅サービスにつなげることもある。健康相談を軸に生活の質(QOL)に関わる相談事を受けるのは、家庭医の重要な業務。かかりつけ医との違いが浮き彫りになりそうだ。浅川 澄一 氏 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

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